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被服支廠 工費に4案 有識者了承 最大17億7000万円

 広島県は25日、広島市南区に所有する最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で進めてきた耐震性の再調査結果を、建築の専門家たちでつくる有識者会議に報告した。耐震補強をするかどうかや建物をどこまで活用するかに応じて、1棟当たりの概算工事費を3億9千万~17億7千万円とする内容で、会議の了承を得た。保存・活用の方向性を最終判断するための材料とする。(樋口浩二)

 会議は、大学教授たち委員6人の研究室と県庁をインターネットで結んだ。県の担当者は、10~11月にした建物のれんが壁や基礎の強度などの再調査を踏まえて、耐震化する場合は建物内側や天井のはりを鉄骨で補強するといった工法を説明。耐震性の有無と建物の活用度に応じた4パターンの概算工事費を示した。

 耐震化する三つのパターンのうち、1階を博物館、2階と3階を会議室とする全面活用案は17億7千万円。2017年度の前回調査の試算と比べて15億3千万円減り、ほぼ半減する。1階の3分の1を会議室に使う一部活用案は13億2千万円で9億8千万円減、前回算出していない内部見学案は5億8千万円とした。

 耐震改修をしない外観保存案は3億9千万円で、1千万円下がると導いた。

 委員は「調査の手法、結果とも適切」などと評価した。終了後、会長で工学院大(東京)の後藤治理事長(建築史)は「重要文化財級の価値がある建物。工事をする際は慎重に進めてほしい」と注文した。

 再調査は、建物の周囲で同時期に築かれたれんが塀の強度がこれまでの想定より高いと分かり、県が始めた。県は今回の結果を踏まえて県議会などと議論し、「2棟解体、1棟の外観保存」の現行方針をどうするかを決めるとしている。

費用圧縮の要因 「想定上回る強度」

 広島県が手掛けた旧陸軍被服支廠の耐震性の再調査で、保存規模を定める鍵となる耐震化の概算工事費は2017年度の前回調査と比べて減る試算となった。全面活用案ではほぼ半減となる。なぜこれほどの開きが生じたのか。調査を監修した有識者会議の後藤治会長は「れんが壁と地盤の強度がいずれも想定より高かった。これがコスト減の要因だ」と解説している。

 県は今回の再調査で、全4棟のうち所有する3棟の1~3階のそれぞれ3カ所、計27カ所で、建物の強度のポイントとなるれんが壁のつぎ目を調べた。その結果、強度の平均値は、前回用いた業界団体の標準値の3倍だった。れんが壁をくりぬいた前回調査では結果のばらつきが大きく、採用を見送ったが、今回の信頼性は高いという。

 後藤会長によると、この結果から、前回は必要視した鋼製の棒をれんが壁に挿入したり、建物の揺れを制御する免震装置を基礎部に入れたりする大がかりな工事は不要と判断した。このため、費用の大幅な圧縮につながったという。

 さらに、建物の基礎となる地盤は巨大な建物を十分支えられる強度があると評価した。建物中央部では幅2メートルのコンクリートくいが新たに確認され、くい打ち工事も省けると分析している。

 県は再調査前、耐震化費用を全面活用案で3分の1程度に圧縮できる可能性に言及していた。後藤会長は圧縮幅が2分の1程度にとどまった理由について、より安全性を重視して見積もったためだと説明。「費用がこれ以上、増えることはない」との見方を示した。

 今回の結果について、県議会からは「わずか3年で工事費がここまで変わるのはふに落ちない。保存ありきの調査ではないか」(ベテラン県議)との声が漏れる。県経営企画チームの三島史雄政策監は「専門家の意見を踏まえ、丁寧に説明していく」と話している。(樋口浩二)

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を公表。県議会や、全棟の保存を求める被爆者団体の意向などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2020年12月26日朝刊掲載)

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