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社説・コラム

社説 北朝鮮の「核」回帰 日米韓の結束欠かせぬ

 北朝鮮で5年ぶりの朝鮮労働党大会が8日間にわたって開かれた。党総書記に就任した金正恩(キム・ジョンウン)氏は、経済建設を最大の課題とした上で「核戦争抑止力を強化し、最強の軍事力を育てることに全力を挙げる」と述べた。

 「核」頼みの路線への逆戻りである。軍事偏重が国際社会における孤立を招いてきたのに、理解できないのだろうか。

 東アジアの安全保障のため、もちろん看過できない。日本は米国や韓国との連携を改めて確認し、核放棄への働き掛けを粘り強く続けねばならない。

 20日発足のバイデン米次期政権に対し、北朝鮮がどういう姿勢を見せるかが注目されていた。金氏は米国を「最大の主敵」と強調し、「米国を制圧、屈服させることに対外政治活動の焦点を合わせる」とした。

 2年前の新年の辞では、朝鮮半島の完全非核化への意思を示していた。米韓両首脳との直接会談という進展もあっただけに、白紙に戻すという決定には失望させられる。

 さらに核・ミサイル開発こそが「祖国と人民の運命を守ることのできる強力な保証」として一層の増強を図る構えだ。固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や多弾頭技術の開発を進めているほか、極超音速滑空弾頭の導入や原子力潜水艦の開発も表明した。おとといは軍事パレードを実施して、新型らしき潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も公開している。

 今回、北朝鮮は党規約を改正し、故金正日(キム・ジョンイル)総書記による軍優先の「先軍政治」から脱却するとした。核戦力を誇示して脅すという対外姿勢は矛盾するはずだが、米国からの歩み寄りを期待しているのだろうか。

 だとすれば、大きな勘違いであるばかりか、むしろ国際的な孤立と、経済面での窮乏を一層深めるだけだ。

 昨年までの経済発展5カ年戦略の目標が、「ほぼ全ての部門で遠く達成できなかった」と、金正恩氏は党大会で認めた。そもそも産業基盤が貧弱で、国際社会から経済制裁を受けた上、新型コロナウイルスの流入阻止へ国境封鎖を余儀なくされたのでは無理もあるまい。

 にもかかわらず非核化には応じず、制裁に耐え抜くという。国家の指揮管理で経済秩序を復元するとも。内向き姿勢を強めそうだ。一方で中国への接近は警戒せねばならない。

 経済戦略の成果が上がらなかったことで体制への疑念が生じるのを避けるため、金氏の総書記就任で国内の引き締めを図ったようにも映る。

 窮乏を打開し、人民生活の向上を達成したいなら、核放棄と対話を進めることだ。

 北朝鮮の「核」回帰は、バイデン政権発足前の空白を突いた戦略とも取れる。米国内の一部には、北朝鮮の核保有を認めた上で軍縮を模索すべきだとの考えもあるようだが、決して譲ってはなるまい。

 北朝鮮が強硬姿勢を改めるように、日米韓には一層の結束、連携強化が求められる。

 金氏は今回、日本について言及しなかった。拉致問題の解決へ政府はどう働き掛けるのか。「条件を付けず金正恩氏と向き合う」と菅義偉首相は言うが、被害者家族は高齢化している。糸口を探り、一刻も早く打開を図る必要がある。

(2021年1月16日朝刊掲載)

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