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平和推進条例 勉強会広がる 広島市議会が議案提案目指す 「市民の役割」など疑問の声

 広島市議会が議員提案を目指している平和推進条例(仮称)の素案について、平和活動に関わる市民たちの間に勉強会などの動きが広がっている。素案に記された「市民の役割」や「平和」の捉え方などを疑問視する声が上がっている。(水川恭輔)

 8日、素案に関する市民の「検討会」がビデオ会議で開かれた。広島自治体問題研究所(中区)が主催。平和・反核団体の市民たち約20人が参加した。

 議論では、市民の役割を「市の施策に協力する」と記した第5条への異論が続出。県原水禁の金子哲夫代表委員(72)は「全体として市民の役割の評価が低い」とし、市議会がつくる以上、市民の声を聞いてその活動を発展させる条例にすべきだと訴えた。

 国際協力事業に取り組むNPO法人「ANT―Hiroshima」(同区)の渡部朋子理事長(67)は2条の平和の定義について「持続可能な社会」などの観点も含めるべきだと強調。「国際的な平和の捉え方と比べると、不十分な内容だ」と指摘した。平和記念式典を「厳粛の中で」行うとする6条の規定の真意を問う声も上がった。

 14日夜には、同法人で活動する渡部久仁子さん(40)たちが素案について議論するオンラインイベントを開く。

市議会、4年かけ素案 15日まで意見募集

 平和推進条例の制定についての議論は2017年6月、広島市議会の平和推進・安心社会づくり対策特別委員会で始まった。その後、各会派代表でつくる政策立案検討会議が引き継ぎ、約4年間かけて素案を作った。

 検討会議の会合は計15回。平和関連の150団体と有識者85人に自由記述で意見を聞き、26%に当たる30団体と31人から回答があった。「市民が身近に参画できる条例に」「強制的にならないように」との要望が出た。

 前文と全10条の骨格を示したのは昨夏。平和の定義や市民の役割、厳粛の中での平和記念式典の開催などを明記した。会場周辺でデモがある式典については、厳粛な環境で行われるよう市民の協力を求める決議案を19年6月に全会一致で可決した点を踏まえた。

 代表の若林新三市議(市民連合)は、市民の役割について「押しつけではなく協力を得たい思いで入れた」と説明。式典の厳粛化は「平穏に祈りたい原爆犠牲者の遺族の思いと(デモなど)表現の自由を考慮し、『市民の理解と協力の下に』と記した。意見は受け止める」としている。

 素案への意見は15日まで募集。本年度中の提案、可決を目指している。(新山創)

田村和之・広島大名誉教授に聞く 市民に説明 ともに議論を

 広島市の平和推進条例素案について、行政法が専門で被爆者援護法などに詳しい田村和之・広島大名誉教授(78)=東区=に聞いた。(聞き手は水川恭輔)

 条例を作ること自体は、意義がある。平和の推進に関する施策の基本的なあり方を定める「基本条例」で、市が掲げる国際平和文化都市の形成に法的な裏付けを与える。市は、条例の定めを誠実に実施する責務を負う。市長をはじめとする執行機関が施策を具体化することにつながる。

 ただ、素案には再検討するべき点がある。一つには、平和や原爆被害の捉え方が狭い。

 平和は、「世界中の核兵器が廃絶され、かつ、戦争その他の武力紛争がない状態をいう」と2条で定義されている。ただ、市の男女共同参画推進条例は「すべての人が差別や抑圧から解放されて初めて平和といえる」と記され、市基本構想は「人間らしい生活」なども含めている。これらを参考に再検討するべきだ。

 また、原爆は生活のさまざまな面に被害を及ぼしたのにそれが前文などに十分に反映されていない。原爆被害者の救済・援護を進める観点がなく、核兵器禁止条約に言及していない。平和推進に関する施策は「被爆体験の継承及び伝承」などと記されているが、原爆資料や原爆遺跡の保存・調査研究、平和教育なども含むと明確に理解できる規定にするべきだ。

 市民の役割については、市民は市の施策に協力すると定められているが、施策に異論を持つ市民がいないとは限らない。だが、素案通りに協力することを前提とすれば、反対・非協力は条例違反となる。罰則がなくても、このような規定を設けるべきではない。

 市の施策の基本となる条例なのに、平和記念式典だけは「厳粛の中で」などと具体的に記しているのもバランスを欠いている。市民に疑問の声がある中で作っても効果が得られない恐れがある。市議会は条例案を市民に直接説明して議論する場を設け、市民と一緒により良い条例を練り上げる姿勢を示してほしい。

(2021年2月10日朝刊掲載)

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