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被服支廠の重文調査「必要」 広島県が認識一転 財源面を考慮

 広島県が広島市南区に所有する最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」で、県は12日、国による重要文化財(重文)の指定に向けた調査が必要との認識を初めて示した。文化財に詳しい建築の専門家の意見を踏まえて、指定は困難としていた従来の考えを改めた。国の重文になれば耐震化費用に原則50%の補助を受けられるため、財源面からも可能性を見極める必要があると判断した。(樋口浩二)

 県議会総務委員会で、県経営企画チームの三島史雄政策監が説明した。今後、所有3棟の利活用策などが決まった際、重文指定が国の財政支援を受ける手法になると指摘。「指定に向けた調査を実施する必要がある」と述べた。

 県議からは、県が2019年12月に示した「2棟解体、1棟の外観保存」案を念頭に「重文級の建物を解体しても良いのか」との声が出た。三島政策監は文化財級かどうか、文化庁の確認はできていないと答弁。終了後には「可能性を見定めるためにも、どこかのタイミングで調査しなければならない」と話した。

 県によると調査の実施時期は未定で、建物の利活用策の協議状況などを基に判断する見通しという。利活用策は、15日に開会する県議会定例会での被服支廠を巡る議論を踏まえて、1棟を持つ国、被爆建物の保存ノウハウを持つ広島市と協議する方針でいる。

 国の重文は文化庁が指定し、価値が高いと判断した建物や美術工芸品が対象となる。県は従来、中国財務局からの情報を基に「指定は困難」との見解だった。

 しかし、被服支廠を巡る県の有識者会議では昨年12月、文化財に詳しい複数の委員から「国の重文級」との見立てが明かされた。最古級の鉄筋建築物が約500メートルにわたって並ぶ景観などが理由に挙がった。

 県は被服支廠の耐震性の再調査で、1棟の耐震化や保存に必要な費用を3億9千万~17億7千万円とはじいている。従来の4億~33億円から圧縮されたが、多額の費用が必要となる。

 この日の総務委では、厚生労働省との間で、県が利活用策や保存規模などの方向性を定めれば、費用負担を前提とした協議に加わる意向を確認できたと明らかにした。同様の意向は、広島市も既に表明している。

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年完成で、爆心地の南東2・7キロにある。13棟のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」案を公表。県議会や全棟保存を求める被爆者団体の意向などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2021年2月13日朝刊掲載)

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