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原爆資料館の歩み 新書に 前館長・志賀さんが出版

 原爆資料館(広島市中区)前館長の志賀賢治さん(68)=西区=が、岩波新書「広島平和記念資料館は問いかける」を出版した。1955年の開館以来、広島の「あの日」を伝え続けてきた歩みを通史として記録。自身が在職した約6年間の模索と、「ヒロシマの死者を記憶するための施設」としての使命を語る。

 志賀さんは、広島市を定年退職後、2013年4月から19年3月まで館長を務めた。就任時は、実物資料を柱とする展示の全面リニューアルに向け準備が本格化。ちょうど、被爆直後を再現したプラスチック人形の撤去方針を巡り、抗議の声が上がっていた。「いままで資料館は、どんなことを伝えてきたのだろうか」と考えた、と振り返る。

 国内外からの来客を案内する中で「きのこ雲の下の出来事を如実に表現する必要性を痛感した」。中国新聞の論説主幹だった故金井利博氏の「原爆は威力として知られたか。人間的悲惨として知られたか」という言葉から、遺品や被爆資料などを通して一人一人の人間的悲惨を伝える、との方向性を見いだしたという。

 志賀さんはその原点として、膨大な数の被爆資料の収集に生涯をささげた初代館長の長岡省吾氏に光を当てた。遺族から資料の寄贈を受けた際のエピソードを紹介する。所蔵資料の保存・管理体制を確立するまでの苦労や、大切な遺品を家族から託される職員たちの思いなどもつづる。

 リニューアルした現在の館内展示についてもページを割いて説明。志賀さんは「ガイドブックとして事前学習で使ったり、遠方で来館できない場合に活用したりしてほしい」と話す。

 被爆75年が過ぎ、「迫りつつある被爆者不在のヒロシマを前に、今改めて資料館の使命を確認し続ける必要がある」と志賀さん。博物館でありながら、フォーラムのように「問いかけ、考え、想像し、議論する場」としての使命を思い描く。「記憶の継承を考えている若い人たちに、手に取ってほしい」。岩波書店。238ページ。946円。(新山京子)

(2021年2月16日朝刊掲載)

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