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援護区域外の「黒い雨」展示 広島・安芸太田の光景描写 27日から原爆資料館 「貴重な証言」

 広島市中区の原爆資料館は27日から、原爆投下後の「黒い雨」が国の被爆者援護対象区域外で降る光景が描かれた「原爆の絵」を本館で展示する。黒い雨を巡っては、区域外で浴びるなどした84人による集団訴訟で、広島地裁が原告全員へ被爆者健康手帳の交付を認め、国は区域の再検証を進めている。同館は「関心が高いテーマ」として展示を決めた。(水川恭輔)

 常設展示する資料の定期的な変更の一環。原爆の体験者が描いた原画を並べる「絵筆に込めて」のコーナーで、援護区域内外で黒い雨が降る様子を伝える6枚を新たに紹介する。

 国は、放射性物質を含む黒い雨への援護対象区域を爆心地から北西方面の長さ約19キロ、幅約11キロの卵形の「大雨地域」としている。1945年8~12月に広島管区気象台の宇田道隆技師たちが行った調査に基づく「宇田雨域」がもとだ。資料館は今回、所蔵している黒い雨関連の絵150枚余りをあらためて精査し、区域外の絵を複数確認した。

 展示する1枚は、爆心地の北西約20キロの安野村(現広島県安芸太田町)で降る光景。当時16歳だった中島秋人さんが「焦げた紙片を拾うと黒い雨が降ってきた」などと書き添えて2002年に寄せた。国が援護区域から外している「小雨地域」に含まれ、集団訴訟には同村での黒い雨体験者も加わっている。

 また、「宇田雨域」では降雨域に入っていない、市南部の江波地区周辺で降る光景が描かれた2枚も並べる。

 昨年7月の広島地裁判決は、宇田技師たちのデータは被爆直後の混乱期に限られた人手でまとめられたとして調査の限界を指摘している。国は市県とともに控訴する一方、昨年11月に区域の再検証の検討会を開始。検討会では、専門家から体験者が残した資料の活用を求める声が出ている。

 資料館学芸課の小山亮学芸員は「黒い雨が市内外を問わず、広範囲で降ったことが分かる貴重な『証言』を知ってほしい」と話している。

「黒い雨」訴訟
 原爆投下後に放射性物質を含む「黒い雨」を浴び、健康被害が生じたのに、国の援護対象区域外だったのを理由に被爆者健康手帳の交付申請を却下したのは違法として、広島市や広島県安芸太田町の70~90代の男女84人が市と県に却下処分の取り消しを求め、2015年11月から順次起こした訴訟。20年7月の広島地裁判決は全員への手帳交付を命じた。国は現在「大雨地域」を援護対象区域に設定し、がんや白内障など国が定める11疾病と診断されれば手帳が交付され、医療費の原則無料などの援護策を受けられる。

(2021年2月24日朝刊掲載)

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