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広島の被爆者 田中さん宅 平和交流の場 来訪5000人突破 日英語で証言 オンラインも

 被爆者で七宝作家の田中稔子さん(82)=広島市東区=が自宅を改築して設けた「平和交流スペース」の訪問者が、2016年4月のオープン以来延べ5千人を突破した。平和学習や観光で国内外から広島を訪れる人たちを受け入れ、被爆体験を伝えている。新型コロナウイルス禍で来訪者が減った昨年から、オンライン証言にも力を入れる。

 田中さんは「核の傘」や「平和の輪」をイメージした壁面七宝の自作を掲げた室内で、6歳の時の体験やその後の苦しみ、核兵器廃絶への思いを日本語と英語で語っている。口コミで「ここに行けば被爆者に会える」との情報が徐々に広がっていったという。

 長年、あの日のつらい記憶を口にできなかった。転機は、非政府組織(NGO)ピースボートの地球一周の船旅に参加した08年。南米ベネズエラで現地の市長に「被爆証言があなたの責務」と背を押され、各地で語り始めた。一方、年齢とともに自ら出向くことが難しくなる現実も痛感。足元の活動拠点をつくった。

 来訪者から励ましを得ている。突然尋ねてきたイタリア人の若者は、15年に田中さんが現地に招かれ講演したピサ大で日本語を学ぶ学生だった。平和記念公園でガイド活動をするNPO法人「ピースカルチャービレッジ(PCV)」(三次市)スタッフで米国出身のメアリー・ポピオさんは、「日本の祖母に会う感覚」でよく立ち寄ってくれる。

 現在、PCVやピースボートの依頼で、オンライン上で世界の若者に証言している。カレンダーは予定の書き込みでびっしりだ。

 延べ5千人との触れ合いは「一期一会を大切にしてきた積み重ねです」と田中さん。「核兵器廃絶という目標のため、命の限り語り続ける」。コロナ禍を越えて、来訪者が絶えない日々が再び来ることを待ち望んでいる。(山本祐司)

(2021年3月16日朝刊掲載)

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