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連載・特集

艦載機移転3年 <中> 交付金の恩恵

「基地と共存」 施設次々 議会 弱まる批判の声

 フクロウをモチーフにした大型遊具を中心に大小の滑り台や水遊び場が並ぶ。岩国市中心部から南西3・5キロの丘陵地に広がる愛宕山地域の一角。27日に完成した多目的広場「ふくろう公園」には早速、親子連れの笑顔があふれた。子ども3人と訪れた近くの主婦沖中友紀江さん(42)は「小学校の高学年も遊べる、こういう施設を望んでいた」と開園を喜んだ。

 隣接地には、野球場や陸上競技場などを備えた愛宕スポーツコンプレックスもある。一帯は運動やレジャーを目的に幅広い世代が集まるエリアとなった。

感慨浸る市長

 愛宕山は米軍岩国基地の負担増に反対する運動の象徴でもある。かつて標高120メートルほどあった山は、基地滑走路の沖合移設に向けて埋め立て用の土砂を確保するため崩された。100ヘクタールに及ぶ開発地の多くを米軍関係者の住宅とする計画に、住民団体が激しく抵抗した。

 23年間をかけた愛宕山の一連の開発が公園のオープンとともに完了した今、当時の反対運動は思い起こし難い。昨年1月の市長選で「基地との共存」を掲げ、76%の得票率で4選を果たした福田良彦市長は公園の完成式典後、「厳しい局面が何度もあったが、市民が喜ぶエリアにすることができた」と感慨に浸った。

 国防への協力姿勢は市に膨大な基地マネーをもたらした。空母艦載機の岩国移転に反対した前市長を退け、福田市長が初当選した直後の2008年度以降、基地関連の国の補助金・交付金は21年度の予定を含め総額896億円(一般会計予算ベース)。このうち艦載機移転に絡む再編交付金が201億円を占める。

 ふくろう公園も事業費12億円のうち4分の3が基地関連の補助金。このほか国が150億円を投じた愛宕スポーツコンプレックスを含め、市内には新しい施設が次々と建つ。ハード整備にとどまらず市は16年度に中学3年までの医療費を、18年度には小中学校の給食費も無料にした。

 「医療費と給食費の無料化は市民が艦載機移転に理解を示す決定打だった。私たちの反対運動は国から金を引き出す口実として市にうまく利用された」。基地負担の軽減を訴え続ける元市議の田村順玄さん(75)は苦々しい表情で振り返る。

 18年3月に完了した空母艦載機移転に伴い軍人、軍属と家族の約3800人が岩国に移り住み、基地関係者は市の人口の1割に迫る1万人超となった。地元経済界には消費拡大への期待もあったが、新型コロナウイルスの影響で基地関係者の外出制限が続く中、米兵相手の店ほど厳しい状況に追い込まれている。

「不安高まる」

 市議会内では苦境を打開するため、21年度が最終年度の再編交付金の延長や、山口県にも年間50億円交付されている再編交付金の活用に期待する声が高まっている。騒音被害や事故の危険といった基地の負の面を批判するよりも、基地の恩恵を最大限引き出そうとの考えだ。

 今月5日から4日間の日程であった市議会一般質問。市議の1人は「基地への市民の不安は高まっている」と訴えた。艦載機移転から3年の節目を控え、市議会で基地の負担軽減を正面から訴えたのは、登壇した22人のうちこの1人だけだった。(永山啓一)

(2021年3月29日朝刊掲載)

艦載機移転3年 <上> 進む軍事拠点化

艦載機移転3年 <下> 広がる訓練地

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