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連載・特集

艦載機移転3年 <下> 広がる訓練地

騒音懸念 馬毛島でも 振興に期待 地域二分

 米軍岩国基地(岩国市)から南に400キロ。鹿児島県の種子島の沖合12キロに浮かぶ西之表市の無人島、馬毛島で自衛隊基地の建設計画が進んでいる。国は激しい騒音を伴う米軍機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)を移転する方針だ。市内では国の交付金による振興策を期待する市民と、環境や漁業への影響を不安視する市民が真っ二つに分かれ、論争が続いている。

周辺 豊かな漁場
 「馬毛島の周りはトコブシやカツオ、イカなどの豊かな漁場。基地ができたら永遠に奪われる」。中学卒業まで島で暮らした漁業日高薫さん(72)は船を整備する手を休め、つぶやいた。周囲16キロの島。ピーク時には500人余りが暮らした。レジャー施設など複数の開発案が浮かんでは消える中、住民は土地を手放し、1980年には無人島に。そこで浮上したのがFCLPの移転構想だった。

 FCLPは、空母に確実に離着陸できるよう陸上の滑走路を甲板に見立てた訓練で、夜間も繰り返す。現在は岩国基地から1400キロ離れた硫黄島(東京都)で行っているが、空母艦載機が厚木基地(神奈川県)から移転され、移動距離が片道200キロほど延びた。米軍は往復時に機体に異常があった際、緊急着陸しやすい本土に近い訓練地を長年求めていた。

 転機は2019年11月。国が馬毛島のほぼ全域を約160億円で買収することで地権者と合意し、計画は一気に動き始める。

 国は基地を受け入れた場合、地元自治体に交付金や補助金を出す方針を示す。公園整備や子どもの医療費助成、イベント開催などに幅広く活用できるとする。

岩国は「成功例」

 計画を容認する市民は交付金を活用した地域振興に期待する。農業や建設業界などの代表でつくる「馬毛島の自衛隊・FCLP訓練を支援する市民の会」会長の折口金吉さん(69)は「地元が反対しても計画は進む。国に言うべきは言いつつ振興策を具体化した方がいい」と話す。基地と共存する「成功例」として岩国市を近く視察するという。 西之表市の人口は1万5千人。半世紀でほぼ半減し、中心街もシャッターを閉めた店が目立つ。夜は人や車の姿がなくなり、風と波の音がわずかに聞こえるだけとなる。

 「静かで豊かな自然が種子島の魅力。定年後にUターンで島に戻る人が多いのも、移住者が増えているのもこの環境があるから」。市民団体「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」会長の三宅公人さん(68)は自らが定年後に島へ戻った経験を踏まえ、基地の交付金に頼らないまちづくりの必要性を訴える。

 1月末、基地建設に反対する八板俊輔市長(67)が容認派の候補を破り、再選を果たした。その差はわずか144票。国は選挙結果にかかわらず、海上ボーリング調査や環境アセスメントの手続きに着手。計画を進める姿勢を崩していない。

 空母艦載機の移転が完了し、岩国基地は極東最大級となった。騒音被害が悪化した中国地方にとどまらず、基地負担は日本列島の南の端の離島にまで広がろうとしている。八板市長は馬毛島を望む市役所応接室で悲痛な声で訴えた。「馬毛島には日本でもここにしかない貴重な自然や歴史、文化がある。それが米軍の訓練のために損なわれようとしている。どうでも良い無人島の問題ではなく、日本国民全体の問題として考えてほしい」(永山啓一)

 馬毛島の基地建設計画

 防衛省などによると、島内に2450メートルと1830メートルの2本の滑走路を整備する。米空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)を年20日程度、自衛隊機の訓練を年130日程度実施する想定。自衛隊員150~200人が常駐し陸海空自の訓練拠点とする。隊員や家族が住む宿舎は西之表市など1市2町がある種子島に建設する方針。

(2021年3月30日朝刊掲載)

艦載機移転3年 <上> 進む軍事拠点化

艦載機移転3年 <中> 交付金の恩恵

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