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社説・コラム

『潮流』 あらゆる「非人道」

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 紛争や騒乱を報じる海外ニュースに接すると、「ところでこの国は核兵器禁止条約に賛成していたっけ」と思い、調べる。条約は、核兵器を非人道兵器として全面的に違法化する。とはいえ、賛成国の政権の行いも人道的だとは限らない。

 例えばマドゥロ政権が独裁を強める南米ベネズエラは、最も早く条約に加盟した国の一つ。政府軍兵士や武装勢力による性暴力被害に取り組み、2018年にノーベル平和賞を受けたムクウェゲ医師が住むコンゴ(旧ザイール)は、加盟の前段階となる署名をとうに済ませている。

 ミャンマーも、86を数える署名国の一角を占める。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))は、ウェブサイトに条約を巡る各国の状況を英文で記す。それによると、政府は批准に意欲的で、国軍代表の国会議員も「ミャンマーは核兵器開発をしないのか、という対外的な疑念を一掃する」と評価したという。

 そのミャンマーで国軍がクーデターを起こし、反発する市民の非暴力運動を弾圧している。3月27日だけで114人が殺害された。

 先だって広島市民らが開いた抗議集会を取材した。場所は原爆ドーム前。海外の人権侵害について、核の惨禍を象徴する遺構から告発するのはなぜ―。「原爆に無差別に命を奪われたヒロシマは、あらゆる非人道的な行いを許さない。繰り返させない。ここで決意し行動する」。主催者の言葉が胸にぐさりと刺さった。

 私たちは、「核」だけでない国内外の人道問題に十分注目しているか。条約に前向きな国だと聞けば「いい国かも」と何となく思考停止していないか。あらゆる非人道的な行いを許さない、という象徴の地であってこそ、広島は遠い将来も世界にとって普遍的な存在であり続ける。そう言われたように思う。

(2021年4月1日朝刊掲載)

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