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シリアの子に物資を 「再興には教育大事」 内戦10年 出身のアブドゥーラさん 支援訴え

 シリア内戦の発端になった大規模な反政府デモから10年がたった。同国出身で市民団体「日本シリア連帯協会」代表のアブドゥーラ・バセムさん(53)=廿日市市=は、古里の子どもたちに文房具などを贈る活動を続ける。「きっともう、帰れない。せめて一番の犠牲者である子どもの力になりたい」。混乱に終わりが見えない中、支援の拡大を訴える。(高本友子)

 「困っているのは他でもない古里の人。私は動かなければいけなかった」。全国から届いた支援物資を前にアブドゥーラさんは語る。同団体を設立したのは反政府デモから1年後の2012年春。「国を再興するには教育が大事」と考え、年に1回、シリアや隣国のトルコに避難した子どもに物資を送っている。

 シリアの首都ダマスカスで生まれ、27歳まで過ごした。1995年に九州大大学院へ留学し、広島市の建設会社などで勤務。11年3月15日のデモの時は「ようやく独裁政権が終わる」と肯定的に受け止めていた。

 しかしその後、内戦状態に。今、現地では10時間並ばないとパンも買えず、電気を使えるのも1日に数時間という。この10年、古里の報道に触れるたびやりきれなさと怒りが募る。「まるで大切な人が日に日に弱っていくよう」。だが、いくら泣いても状況は好転しない。

 きょうだいと母はトルコや米国で暮らすが、父はダマスカスで親戚と暮らす。13年に日本へ呼び寄せたものの、8カ月ほどで帰国した。裁判官だった父は、必ず歩いて通勤し、近隣住民の困りごとに耳を傾けるような人。「父にとってはシリアで暮らすことが何より大事。その気持ちを尊重した」と自らを納得させる。

 アサド政権や反体制派などを支援する各国の利害が絡み、内戦の終わりは見通せない。「国際的な問題だといま一度考え、心を寄せて」とアブドゥーラさん。ランドセルや文房具、新品の服などの支援物資を受け付けている。問い合わせは電子メールjapan.syria.solidarity@gmail.com

シリア内戦
 中東・北アフリカで長期独裁政権を倒した民主化運動「アラブの春」がシリアにも波及し、2011年3月15日、反政府デモが起きた。アサド政権はデモの参加者を弾圧し、内戦に発展。アサド政権の後ろ盾となっているロシアや、反政府勢力を支援するトルコ、米国などの思惑が絡み、混乱が続く。この10年の死者数は約40万人で、1千万人以上が避難したとされる。市民は貧困に苦しみ「今世紀最悪の人道危機」とも呼ばれる。

(2021年4月6日朝刊掲載)

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