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被爆2世で広島出身の児童文学作家 朽木祥さん 小説「光のうつしえ」 英語版刊行

ヒロシマの痛み 国境を超え共感

 被爆2世で広島市出身の児童文学作家朽木祥さん(64)=神奈川県鎌倉市=の小説「光のうつしえ」(講談社)の英語版=写真=が世界各国で刊行された。近年海外で日本の作家の小説が相次ぎ翻訳されて注目を集める中、原爆や平和を題材にした本も存在感を増す。「学校では教わらない広島の人たちの苦しみを知った」などの反響が寄せられている。(鈴中直美)

 「光のうつしえ」は2013年に刊行し、翌14年に福田清人賞と小学館児童出版文化賞を受賞。今年3月に「Soul Lanterns」の題で米出版大手ペンギン・ランダムハウスから出版された。被爆から25年ほどたった広島を舞台に、主人公の中学生が周囲の人たちから聞く被爆証言を通じて、戦争で大切な人を失う悲しみや孤独を描いた物語だ。

 英訳したのは、若手翻訳家のエミリ・バリストレリさん(35)=東京都。19年にこの本を手に取り「教科書で学ぶ原爆と違い、広島の人の声が紡がれていて心に訴える力がある。国境を超えて深く考えるきっかけになる」と感じたという。翌20年、ペンギン・ランダムハウスの編集者に紹介すると、すぐに出版が決まった。

 朽木さんはこれまでも物語の力で戦争や原爆の負の記憶を伝えてきた。英訳本の刊行については「人種も国も関係なく、悲しみやつらさに共感し、共に苦しむ『共感共苦』の気持ちを呼び起こしたい」と願う。

 米国の司書向け情報誌スクール・ライブラリー・ジャーナルには「日本人の目線で原爆投下を描いた心揺さぶられる物語。その筆致は繊細で偽りがなく、想像を絶する痛みや苦しみへの共感を呼び起こす」との評論が掲載。老舗書評誌カーカス・レビューには「喪失、後悔、孤独、悲しみを描いた物語は力強く感動的」とコメントが載るなど、高い評価を得ている。

 広島大大学院のダルミ・カタリン助教(33)=日本現代文学=は「米国では被爆2世の著者が内側からの視点で書いた点も評価につながっている」とみる。単に原爆の残酷さを伝えるのではなく、個人の小さな悲劇を丁寧に描いたことにも注目。「読者が共感しやすく、時代や国を超えて紛争やテロ行為の残酷さと結びつけて考えることができるだろう。大人にも読んでほしい一冊だ」と話している。

(2021年4月7日朝刊掲載)

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