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社説・コラム

就任10年 松井・広島市長に聞く

平和文化 醸成に力注ぐ 街づくり 再開発で順調

 10日で就任10年を迎える広島市の松井一実市長(68)が9日、中国新聞のインタビューに応じた。これまでの市政運営で都心の再開発などを押し進め、世界に誇れる街づくりが軌道に乗っているとの認識を強調。核兵器廃絶に向けて国際社会との連携を強め、市民が平和を願う思いを日常的に共有する「平和文化」の醸成に注力する考えを示した。(久保田剛)

  ―10年間をどう振り返りますか。
 各国の為政者や世界中の人たちに被爆の実態を伝え、被爆者の思いを共感してもらうため、「迎える広島」に取り組んできた。2016年には米国の現職大統領として初めてオバマ氏を、19年にはローマ教皇フランシスコを迎えた。(会長を務める)平和首長会議は10年間で約3300都市が増え、8千都市を超えた。市民社会も含め、共感の輪を広げる具体的な取り組みが確実に広がった。

 紙屋町・八丁堀地区とJR広島駅周辺の二つの地域では、一体的に観光客たちの回遊性アップなどを進める「楕円(だえん)形の都心づくり」を進めた。街の玄関口のJR広島駅南口広場の再整備や、サッカースタジアム建設計画なども前に進めた。市民には、街の変容を実感してもらえていると思う。

  ―都心の大改造が進む一方、財源確保が課題です。
 予算規模の全体をみてほしい。本年度の一般会計6837億円のうち、子育て支援などに充てる義務的経費は3653億円を占めている。投資的経費は932億円で多い時の半分だ。福祉を削って投資をするようなことはしていない。

 限られた財源の中、事業期間や年度ごとの進度を調整した上で、複数を同時並行で進めている。国や県の財政支援を積極的に使い、足らざるを出す。ストップしていた事業を動かしている工夫をみてほしい。

  ―14年8月の広島土砂災害と18年7月の西日本豪雨では、多くの犠牲者が出ました。
 犠牲を生まないシステムの強化を続ける。広島土砂災害の後、危機管理部門を消防局から切り離し、空振りを恐れずに避難情報を迅速に出すようにした。防災リーダーを育成し、スマートフォン向けの防災アプリも開発した。ただ、住民の避難行動につなげることは徹底できていない。大きな課題だ。

  ―被爆から76年。平和行政の成果と課題は。
 被爆者の言葉や実体験を広め、伝えることが市の使命。外相会合や国連軍縮会議を誘致し、「迎える」重要性は再確認できた。原爆資料館をリニューアルし、実物展示でより訴えかけるものにした。

 今年1月には核兵器禁止条約が発効した。実効性を高めなければならない。そこで、平和首長会議の活動の柱に「平和文化の振興」を掲げた。多くの市民が自国に条約参加を促すため、都市の連携を強めたい。

  ―「平和文化」を、具体的にはどう醸成しますか。
 平和を実感できるような取り組みを、ソフト面でやっていく。音楽を含めた総合文化芸術イベントを、新たに始める。多くの市民が音楽を楽しむことで、ファンや演者が増えてほしい。

 ソフト面の施策を充実させて機運が高まれば、象徴として「シンフォニーホール(音楽専用ホール)をみんなで造ろう」という夢が描ける。市民が最高水準の音楽を味わう場となる。候補地として、旧市民球場跡地の余地を残している。

  ―現在3期目。次の市長選には立候補しますか。
 決めていない。任期は残り2年。地域コミュニティーの活性化に力を入れる。どこまでできるか、自身で採点した上で考えたい。

(2021年4月10日朝刊掲載)

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