×

ニュース

広島の風景 銀幕に 村上春樹原作「ドライブ・マイ・カー」 平和公園や中工場

 村上春樹の短編小説を映画化し、県内で大部分が撮影された「ドライブ・マイ・カー」(浜口竜介監督)が8月20日に公開される。広島市内の幹線道路や平和記念公園など、なじみの風景が映し出される。7月のカンヌ国際映画祭への出品も決まり、ロケ地・広島が注目を浴びそうだ。(馬場洋太)

 作品は、妻を失った喪失感に苦しむ舞台俳優の家福(西島秀俊)が主人公。国際演劇祭の演出を任され、東京から愛車のサーブで広島入りする。そこで家福の専属ドライバーとなる、みさき(三浦透子)と過ごす中で、自らが目を背けてきたことに気付く、というストーリーだ。撮影に協力した広島フィルム・コミッション(FC)によると、県内では2020年11月から12月にかけロケがあった。

 タイトルにもある「ドライブ」は、2人の距離を近づける役割を担う。象徴的なのが、広島高速4号線(西区中広町―安佐南区大塚東町)を走る夜のシーンだ。約4キロのトンネルを駆ける間に、運転席のみさきが過去を打ち明ける。トンネル出口では街明かりが眼下に広がり、2人が互いに心を開いてきたことを暗示する。

 広島らしい瀬戸内の情景も随所に盛り込まれた。ポスターに当たるPR画像は、家福が滞在拠点とした大崎下島(呉市豊町)の御手洗地区で撮影された。

 原作の短編小説は東京が舞台。浜口監督は、東京では車の走行シーンを自由に撮影できないとみて、韓国の釜山を主なロケ地に決めていた。だが、新型コロナウイルス禍で海外ロケが困難に。映画の設定である、国際演劇祭の開催地にふさわしい大都市を条件に、国内でロケ地を探した。

 広島FCの西崎智子さん(55)によると、広島ロケの決め手の一つは、広島市のごみ焼却施設「中工場」(中区南吉島)だったという。原爆ドームと平和記念公園を結ぶ南北軸の先にあり、軸線を遮らないように建物の中央はガラス張り。見学通路も美術館のような斬新なデザイン。浜口監督は「文化を感じるまち」と感銘を受け、同工場や工場そばの宮島を望む公園を重要シーンに採用している。

 ロケはこのほか、広島国際会議場(中区中島町)や東広島市の芸術文化ホールくららでもあった。西崎さんは「上映時間が2時間59分と長い分、広島がたっぷり映っている。誰もが見覚えのある風景も出てくるので、公開を楽しみにしてほしい」と話している。

(2021年6月29日朝刊掲載)

年別アーカイブ