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有福温泉荘閉鎖 江津市、跡地活用策見えず 土砂警戒区域に立地

 利用者の減少から26日に閉鎖された江津市の原爆被爆者有福温泉療養研究所「有福温泉荘」。施設は来春に解体されるが、約3200平方メートルの施設用地を所有し、施設の運営主体だった同市は跡地活用策を示していない。新たな被爆者宿泊施設の整備を探る動きもあるが、採算面や立地条件の課題が山積し、今後の活用の見通しは不透明だ。(森田晃司)

 有福温泉荘は、広島原爆障害対策協議会(原対協、広島市中区)が1967年に開設。江津市などでつくる協議会に運営を委託し、被爆者の宿泊を中心に46年間で83万人が利用した。近くの温泉街で土産物店を営む河野貴雄さん(66)は「温泉荘の浴衣を着て散歩する人も多く、昔はにぎやかだった」と懐かしむ。

新たな施設頓挫

 だが、被爆者の高齢化で利用は減り続け、原対協は2012年11月、施設廃止を決めた。同12月、広島市東区の社会福祉法人かきつばた福祉会が、新たな被爆者宿泊施設に併設する特別養護老人ホームの建設方針を市に示したが、浜田地区広域行政組合の選定に漏れ、頓挫した。

 同福祉会の山田忠義理事長(79)は今月20日、江津市役所に武本靖・健康福祉部長を訪ね、被爆者宿泊施設(定員20人)と要介護者向けショートステイ施設(20床)の新設を検討している考えを伝えた。

 しかし、「法人内に収益を不安視する役員が多く、合意を得られない」(山田理事長)として、事業主体は理事長個人が出資する株式会社を想定。来年2月末までに事業化の可否を市に伝える方針だが、ショートステイ施設は特養に比べて参入規制が少なく、業者間の競争が激しい。山田理事長も「採算は厳しい。黒字が見込めないなら断念する」とする。

 民間主導の動きが難航する一方、市の対応も鈍い。率先して活用策を示さない理由を、武本部長は「山田理事長の結論を待つ」とするが、小笠原隆・総務部長は「跡地は土砂災害警戒区域にあり、公共施設には不向き。江津駅前再開発などの大規模事業があり、財源の捻出も難しい」と別の理由を明かす。「駐車場や広場にする話が出た程度」と無策を認める市幹部もいる。

 有福温泉荘では毎年8月6日に原爆死没者追悼式を開き、地元児童の平和学習の場にもなっていた。災害時の避難所として活用されたこともある。

解体中止を訴え

 地元住民でつくる「有福温泉町まちづくり協議会」は施設の解体中止を市に訴えたが、解体を中止すれば費用負担の主体が原対協から市に移ることから、方針は覆らなかった。盆子原温(たずね)会長(64)は「更地の状態が続けば、被爆者の保養の場だった歴史の記憶も消える」と嘆く。一方で「地元だけで新たな施設をつくることは難しく、企業や行政の力を借りたい」と期待するが、官民双方ともに有効な対策を見いだせない状況は長期化しそうだ。

(2013年12月27日朝刊掲載)

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