×

ニュース

旬なひと アニメ映画監督・高畑さん 岡山で講演 自然と人間 距離に危機感

心折れる若者 遠因と指摘

 小学校から高校までを岡山市で過ごしたアニメーション映画監督の高畑勲さん(78)が23日、同市北区の県生涯学習センターで「映画を作りながら考えたこと」と題して講演し、少年時代の思い出とともに、自然と付き合い続ける大切さを訴えた。(永山啓一)

 「火を扱う能力や自然の物をとってきて活用する能力がなくなっている」。冒頭、訴えたのは自然と人間の距離が遠くなったことへの危機感だった。

 「農業をしていれば分かると思うが、自然は理想通りにはならない。それでもなんとかやっていかないといけない」。自然との関係の薄さが、簡単に心が折れる若者の増えた遠因と指摘する。

 煩わしい人間関係を避ける現代の子どもの象徴として描いたのが、監督作品の一つ「火垂るの墓」の主人公、14歳の少年「清太」だった。清太は太平洋戦争中、両親を失い親戚の家に妹と預けられるが、おばのいじめに耐えきれず家を飛び出してしまう。

 戦時中の子どもの象徴と見られがちだが「清太はあの時代としては特殊。誇りが高く頭が下げられない。多くの人は屈辱を受けても耐えて生き延びた」と、明かした。

 高畑さんは戦中だった小学1年生の時、三重県から岡山市中区に転居し、空襲も経験した。当時習った「今は山中、今は浜」と始まる唱歌「汽車」や「山の上」という詩が忘れられないという。いずれも自然と人里の情景を描いており「瀬戸内の風景とも似ていた。日本人は自然に対する感受性が豊かだった」と振り返る。

 手がけた数々の作品には農家が嫌う雑草を意識的に描いた。人間の思い通りにいかない自然の象徴だ。「アニメーションで自然と人間の付き合い方を描いてきた。人間は自然を変えるけど、自然も生き続けないといけない」と訴えた。

たかはた・いさお
 三重県伊勢市生まれ。朝日高(岡山市中区)卒。東京大文学部仏文科卒業後、東映動画入社。1985年、スタジオジブリ設立に参画した。監督作品は「おもひでぽろぽろ」「かぐや姫の物語」など。

(2014年2月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ