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東日本大震災から3年 遊覧船 希望乗せ建造へ 8月出港

 広島県尾道市の造船業「ツネイシクラフト&ファシリティーズ」が津波被害に遭った岩手県山田町に設立した造船会社で4月、受注第1号の遊覧船の建造が始まる。「モノづくりの力で復興の一助になりたい」と、両社の神原潤社長(42)。尾道の造船技術を学んだ地元の職人たちも、その気持ちを受け継ぐ。(久保田剛)

 カキの養殖棚が浮かぶ山田湾に、ツネイシが創業した造船会社「ティエフシー(TFC)」の工場はある。壁に大きく「がんばろう!山田町」の文字。広さ約700平方メートルの工場に、技術習得のために受注なしで製造した定置網漁船がある。「いいのができた。復興ののろしを上げた船だ」。神原社長は真っ白な船体を優しくなでた。

 全長21メートルの遊覧船(定員82人)は昨年11月、神原社長と、関連会社の元社長で現地に派遣した廣田耕一専務(64)たちの懸命な営業活動で、岩手県田野畑村の観光業者「陸中たのはた」から受注した。三陸沖での8月の出港を目指し、設計や資材の調達を進める。陸中たのはたの高木豊総務部長(65)は「遠い尾道から復興を応援してくれた会社に頼みたかった」と話す。

 地元で社員15人を採用した。約千キロ離れた尾道市で先輩職人から約9カ月~1年間、溶接や設計を学んだ。勤めていた合板会社が被災して解雇され、TFCに入社した武藤吉彦さん(45)は「地元で再就職をしたい願いがかなった。技術を磨いて多くの船を造り漁業の復興に尽くしたい」と意気込む。

 TFCは、2011年7月に設立した。神原社長が震災直後に社員たち4人と被災地を訪れたのがきっかけだった。「雇用を確保しないと被災地は衰退する。会社の技術を生かせないか」。町とゆかりはなかったが、地元の漁協の要請もあり、工場進出を決めた。

 被災地の沿岸部では地元企業の再建が進むが、地盤沈下による事業所移転や働き手の流出で経済情勢は厳しい。社名には「東北(T)、復興(F)、カンパニー(C)」の願いを込めた。神原社長は「成長し、後に続く企業のモデルになりたい。焦らず一歩一歩、確実に歩む」と力を込めた。

(2014年2月28日朝刊掲載)

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