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社説・コラム

北朝鮮核実験の影響 阿部信泰元国連事務次長に聞く

■記者 金崎由美

 北朝鮮が強行した核実験は、核軍縮や不拡散を目指す各国の努力に水を差した。今後の影響について26日、軍縮問題に携わる阿部信泰元国連事務次長に都内で聞いた。

 -今回の核実験は世界の核軍縮にどう影響すると思いますか。
 核拡散防止条約(NPT)再検討会議を来年に控え、オバマ米大統領が「核兵器のない世界」を目指すと演説し、見通しが明るくなっていた。そのタイミングでの強行だ。包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准をめぐり、上院の反対派が勢いづく可能性がある。米国内の保守派が「軍縮という譲歩ばかりしている」と批判し、政権の立場が苦しくなる事態を懸念している。

 -日本への影響は。
 北朝鮮が核兵器開発をやめないとなれば、ミサイル防衛(MD)計画を進めたり、米国の核の傘に頼り続けたりせざるを得なくなる。中国に核軍縮を迫る矛先も鈍る。

 核兵器ゼロとは、核の傘が必要ない世界だ。北朝鮮が核を持っていては環境は整わない。今回の核実験が、軍縮議論に水を差していることは否めない。

 -強行した意図をどう見ますか。
 独自の核戦力を確立する、と意を決しているように見える。単に経済援助を引き出す取引材料にしては、やり方が性急だ。だからこそ、開発を阻止するのは大変になる。

 -対応策は。
 日米は制裁措置としてあらゆるカードを切ってしまった。中国とロシアも一致して取り組まない限り実効性を持たせるのは難しい。

 しかしどんなに難しく時間がかかっても、望みは捨ててはならない。「核を放棄すれば、北朝鮮にこんなに利点がある」と、条件を提示して粘り強く説得するしかない。

 -短期的には、米国が直接交渉するしかないのでしょうか。
 米国は、北朝鮮の安全保障について強力な交渉カードを持っている。ただオバマ政権の北朝鮮政策が決まる前に核実験を強行されてしまった。素早く反応できていない。

 -軍縮の機運が後退するのでは。  そうしてはならない。今回の核実験を受け「核兵器のない世界」を目指す重要性を再認識している。「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)は十月に広島に集まり、年内に最終報告書を仕上げる。「核兵器ゼロ」に向け、実現可能な道筋の提言に全力を尽くす。


 あべ・のぶやす  あべ・のぶやす 外務省軍備管理・科学審議官などを経て2003年から3年間、軍縮担当国連事務次長。現在、日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター所長。核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)で諮問委員を務める。 (2009年5月27日朝刊掲載)

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