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社説・コラム

日本被団協中央相談所の肥田舜太郎前理事長に聞く

■記者 岡田浩平

内部被曝こそ病気の原因 科学理由に切り捨てるな

 30年務めた日本被団協中央相談所の理事長をこのほど退任した医師肥田舜太郎さん(92)=さいたま市浦和区=に、臨床医の経験を踏まえた原爆症認定のあり方や集団訴訟解決の視点を聞いた。

 ―原爆症をどうとらえていますか。
 直接被爆や入市、救護の被爆者に共通しているのは内部被曝(ひばく)しているという点だ。これこそ原爆の本質だ。放射線が体内に入ると何十年と居座り、病気になる準備段階をつくり、その後、いろいろな刺激で病名のつく病気が出てくると理解している。放射線はあらゆる病気の原因になりうる。

 ―そう考えるのは多くの被爆者を診たからですね。
 60年以上前に原爆被害を受け、いまだに症状を訴えて苦しみ、亡くなっている。そこに何かあると思わない方がおかしい。少ない量の被曝の危険性を指摘する論文もある。私は低線量、内部被曝の恐ろしさを重大に考える立場だ。

  ―厚生労働省は原爆症に科学的な根拠を求めてきましたが。
 実験で確かめたわけではないのに科学を理由に切り捨てるのは愚の骨頂だ。がんや白血病ばかりが認定されているが、それ以外にも認定すべき人はたくさんいる。

  ―集団訴訟には反対していましたが。
 被爆者の基本的な要求は国の戦争責任をはっきりさせることだ。だから、認定制度を部分的に変えさせる裁判には反対した。

 ただ解決の局面では妥協すべきではない。苦しんでいる被爆者を真正面から見据え、しっかり言い分を聞いてほしいと訴える努力が一番大事だ。

 ひだ・しゅんたろう
  17年、広島市生まれ。軍医として広島第一陸軍病院に配属され、戸坂村(現広島市東区)へ往診中に原爆が落ちた。入市して被爆者の救急治療にあたった。戦後は首都圏の病院や診療所で被爆者医療に携わり、今年3月に一線を退くまで約6千人を診察。日本被団協中央相談所理事長を1979年から先月まで務めた。集団訴訟で最初に判決が出た大阪地裁で証言し、原告全員勝訴を導いたとされる。

(2009年7月26日朝刊掲載)

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