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社説・コラム

イラン人毒ガス被害者支援へ 広島とのさらなる医療交流の発展に期待 

■記者 田中美千子

 イラン・イラク戦争(1980~1988年)の毒ガス被害者を治療するイラン人医師たち8人が23日から28日まで、広島市の広島大病院などで先端医療を学んでいる。昨年に続き、2度目の研修。両国の市民が5年前に始めた草の根交流が、医療現場の連携につながった。懸け橋役を務めてきた、現地非政府組織(NGO)の化学兵器被害者支援協会(SCWVS)の国際交流担当シャリアール・ハテリさん(39)に、被爆地広島との交流の意義や今後の抱負を聞いた。

―研修では、何を学んでいますか。
  広島は長年、大久野島(竹原市)にあった旧日本陸軍毒ガス製造工場に出入りしていた患者を診療してきた。毒ガスと同じ大量破壊兵器の原爆による被爆者を診療してきた実績もある。この二つの貴重な経験から、私たちが得るものは大きい。

  広島の医師は、経験に基づいた高度なスキルと、最新の機器も備える。研修では内科、皮膚科などの分野ごとに、技術や医療システムを習得している。

―2004年の平和記念式典参列から、市民の交流が続いています。これまで、広島から何を得ましたか。
  当初は「広島の心」に衝撃を受けた。人々は過去を忘れない一方で、和解の心を大事にする。「惨劇を繰り返させないのが、市民の責務」との意識も強い。復興を成し遂げた姿に希望ももらった。

  政府の新しい調査では、イランでは今も、約6万5000人が毒ガスの後遺症に苦しむ。しかし、その事実さえ、あまりに知られていない。志願兵だった私も毒ガスを浴びた1人。早急な処置で幸い生き延びたが、多くの友は命を落とした。広島と連携し、世界にイランの実情を訴えたい。

―今後、どんな交流を続けたいですか。
  毒ガスは、人体にどのようなメカニズムで被害をもたらすか、が解明されていない。被害者の血液や細胞の調査、研究を進め、より効果的な治療法を確立しなければならない。そのためにも、広島の力が要る。医療関係者の行き来が定着してきたのは、大きな成果だ。個人レベルではなく、病院対病院といった組織的な協力関係を築き、継続したい。

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