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社説・コラム

平和宣言づくりの3日間 非核願い若者議論

■記者 明知隼二

 核兵器をなくすことを目標に活動している「中高生ノーニュークネットワーク広島」メンバーが、長崎の高校生と協力し、共同で平和宣言を書き上げた。「世界中のすべての人へ」と題した宣言は、武力ではなく対話による平和づくりを求め、核兵器廃絶に向けて両被爆地の若者が手を取り合って行動すると誓う。中高生たちは、その文面にどんな思いを込めたのか。完成に至るまでの計3日間の議論を振り返る。

「危機感伝えたい」「真の苦難理解?」

役割を自問

 10人余りの高校生たちがノートパソコンを囲み、真剣な表情で言葉を交わしながら文章を打ち込んでいく。11月最後の日曜日、長崎市内。「よし、完成だ」。緊張が解け、笑顔と拍手が広がった。

 広島と長崎の中高生が互いに行き来し、計3日間の意見交換を重ねて平和宣言を完成させた瞬間だった。

 完成に至る道のりでは、中高生たちは原爆の悲惨さを伝えることや若者の役割、歴史認識などをめぐって何度も立ち止まり、表現の細部についても真剣な議論を繰り広げた。

 「これが核兵器の恐怖です」。宣言は冒頭に、「大切な人」が傷つき失われる描写を盛り込み、核兵器がもたらす悲惨を自分のこととして想像するよう呼び掛ける。広島女学院高2年の中垣友里さん(17)は「今まで関心のなかった人が危機感を覚えるような文章にしたかった」と冒頭部分の狙いを説明する。

 一方で中高生たちの胸中には「自分たちは被爆者ではない。本当の苦しみは分かっていない」との迷いがある。広島学院高2年の金森雄司君(17)は「被爆者の苦しみなどと、僕らは簡単に語り過ぎているのかも」との不安がよぎるという。

 「被爆者の気持ちを本当に理解することはきっとできない」と広島女学院高2年の高本友子さん(17)も思う。それでも、立ち止まるよりも「広島、長崎では原爆について学ぶ機会に恵まれている。伝える責任がある」と前を向く。

「正しい歴史とは」「多くの声聞こう」

加害と原爆

 過去の歴史への向き合い方も重要なポイントになった。「原爆の被害を受け止めてもらうには、日本の戦争加害に向き合わなければならない」と考え、宣言には「正しい歴史を学ぶ」という文言を盛り込んだ。

 それでも、「正しい歴史なんてあるのかな」と小学生時代に米国での生活を経験した修道高1年の三宅利智君(16)が疑問を投げかけた。「僕が学校で教わったのは、真珠湾を奇襲しアジアで蛮行を繰り返す日本を仕方なく原爆で止めたという歴史だった」との問題提起だ。

 「けど、日本がかつてアジアの人たちを苦しめたのは事実だ」。修道高1年の岡田悠輝君(16)は韓国での平和学習の経験をぶつけた。「それを抜きにしては原爆被害は受け止めてもらえない」

 三宅君は「それぞれ主張したい歴史がある。当事者同士の感情をひもとかないといけない」と応じる。全員で議論の末、「多方面から見た正しい歴史」と言葉を挟み、「多くの人の声を聞き、思いを受け止める」とのフレーズも加えた。

   歴史を共有する国や地域の人たちの「共感」に近づきたい。中高生の真摯(しんし)な思いがにじむ。


                「世界中のすべての人へ」
                    広島長崎中高校生平和宣言

                           想像して下さい
   たった一発の原子爆弾によってついさっきまで隣にいた大切な人が一瞬にして焼けただれ、
                         苦しみ死んでいく姿を
                        これが核兵器の恐怖です
                 1945年8月6日8時15分、8月9日11時2分
                   原子爆弾が広島、長崎に投下されました
                     悲惨な歴史を忘れてはいけません
                      そして、繰り返してはいけません

             だからこそ、私たちは世界の核兵器廃絶を目指しています
        私たちは被爆地で生まれ育ち、幼いころから核の恐ろしさを学んできました
           核兵器の廃絶が平和な世界への第一歩となることを信じています

              私たちは世界の現状をしっかりと見つめる必要があります
              多方面から見た正しい歴史を学んでいく必要があります
               多くの人の声を聞き想いを受け止める必要があります

                          そして未来のために
          核兵器や武力でつくる平和ではなく、対話と信頼で平和を築いていきたい
       宗教・人種・言葉の壁を越えて、世界中の人々と手を取り合って行動していきたい
             世界平和実現のためにあなたが今できることを考えてください

                             人のために
                            世界のために
                            地球のために
                               そして
                            未来のために

                        あなたに今何ができますか
                   私たちは微力ですが無力ではないはずです
                 広島長崎の中高生が核兵器廃絶への想いを共有し
               世界平和実現のためにともに歩むことをここに宣言します



参加者の一言

◆金森雄司君(広島学院高2年)
 「平和」に多くのとらえ方があると学びました。僕自身は「平和って何だろう」と考える人が増えれば、世界は少しだけ平和になると考えます。何より危険なのは無関心です。被爆地の中高生からのメッセージが「平和」を考えるきっかけになればうれしいです。

◆木本梨世さん(ノートルダム清心高2年)
 私たちの「核兵器は廃絶しなければいけない」との呼び掛けは、いわば当たり前のことです。それに気づかない大人たちがいるのではないでしょうか。幼いころから被爆体験を聞き、原爆の悲惨を知る私たちが、それを全国や世界に伝えなくてはいけません。

◆高本友子さん(広島女学院高2年)
 平和はもろく、戦争は映画の中のものではありません。六十数年前に、数え切れない人が苦しみ亡くなった事実を学ぶことが、未来をつくる上でいかに大切かを考えるべきです。年齢も被爆地生まれかも関係なく、平和を訴えるのはすべての人の使命だと思います。

◆中垣友里さん(広島女学院高2年)
 被爆者の方々が高齢化する中、広島と長崎の中高生は自分にできることを一生懸命やっています。「使命」と言うほど大げさな意識はないけど、世界中が「核兵器はやめよう」と動きだすよう真剣に考え、学び、アクションを起こすのが若者の役割かなと思います。

◆中間卓也君(広島学院高2年)
 幼いころ祖父母から被爆時の様子を聞いて「戦争はしちゃいけない」と感じたように、知ることが第一歩だと思います。その意味で広島と長崎の中高生が共感し、原爆の恐ろしさや平和の大切さを一緒に世界に伝えようとする意義は大きいと思っています。

活動の経緯

 核兵器のない世界を目指す「中高生ノーニュークネットワーク広島」は、今年5月に結成し、8月から街頭などで本格的な活動を始めた。世界に現存する約2万3千発の核兵器(核弾頭)より多くの折り鶴を集め、オバマ米大統領に届けることを当面の目標とする。大統領が広島を訪れ、核兵器廃絶への市民の願いを受け止めてほしいとの思いからだ。

 活動が知られるにつれ、賛同した県内外の市民や学生から次々と折り鶴が届いている。11月には厚木高(神奈川県厚木市)や活水高(長崎市)の生徒たちがそれぞれの地元で動き始めるなど、同じ世代に活動の輪も広がりつつある。これまでに計2万5千羽を超す鶴が寄せられた。

(2009年12月21日朝刊掲載)

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