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社説・コラム

ヒロシマと世界:北朝鮮非核化への道 米は外交関係正常化を

■文 正仁(ムン・ジョンイン) 延世大学教授(韓国)

文 正仁氏 プロフィル

1951年3月、韓国・済州市生まれ。1984年、米国メリーランド大学で博士号(政治学)取得。ケンタッキー大学准教授を経て、1994年から延世大学政治学教授。同大国際関係大学院学部長も務める。英字季刊誌『グローバル・アジア』編集長。2004年から2005年まで、韓国大統領諮問委員会「北東アジア協力イニシアチブ」委員長(大臣級ポスト)、2006年から2008年まで、外交通商部国際安全保障大使を務めた。40冊以上の著書があるほか、『World Politics』『International Studies Quarterly』など専門誌に230本以上の論文を執筆。最新書に、John Ikenberry共著の『The United States and Northeast Asia: Debates, Issues, and New Order』 (Rowman & Littlefield, 2008)がある。第1回(2000年)と第2回(2007年)の南北首脳会談に加わる。


北朝鮮非核化への道 米は外交関係正常化を


 北朝鮮の高濃縮ウランの開発をめぐり、2002年10月に2度目の北朝鮮核危機が起きてから約8年が過ぎた。一連の6カ国協議やその過程のさまざまな段階で見られた明るい兆しにもかかわらず、状況は悪化している。6カ国協議が暗礁に乗り上げるたび、北朝鮮は挑発的な行動をとり、不信と対立の悪循環が拡大している。

 最近の例を挙げれば、北朝鮮は昨年4月5日に長距離ミサイルの打ち上げ実験を実施。5月25日には2度目の地下核実験を行った後、世界で9番目の核兵器保有国になったと宣言した。こうした北朝鮮の動きに対する国際社会の反応は厳しかった。国連安全保障理事会は6月12日に第1874号決議を採択し、北朝鮮により厳しい制裁を科し始めた。

 だが、こうした制裁にもかかわらず、北朝鮮は本格的な核保有国に近づきつつある。推測はさまざまだが、北朝鮮は少なくとも5、6個のプルトニウム型核弾頭を保有し、高濃縮ウランプログラムの確立も目前だと考えられている。

 北朝鮮には、確かな攻撃能力もある。現在、スカッドB(射程320km、積載重量1000kg)、スカッドC(射程500km、積載重量770kg)、ノドン(射程1350-1500km、積載重量770-1200kg)という数種類のミサイルを所有している。3発の長距離ミサイル(テポドン1号、2号)の発射実験は失敗に終わったが、北朝鮮は中・短距離ミサイルにより韓国と日本に相当な被害を与えることができる。

 北朝鮮は、2006年10月9日に最初の地下核実験を行った。耐震解析から推定される爆発規模が0.5から0.8キロトンであったため、失敗だったと考えられている。成功と見なすには1キロトン以上の爆発規模が必要である。しかし、2009年の2度目の核実験は、3キロトン以上の爆発規模があり成功だった。とはいえ、これまでのところ核弾頭を小型化し、ノドンやスカッドミサイルに搭載する北朝鮮の能力は実証されていない。ほとんどの情報分析は、北朝鮮のこの分野での技術開発が遅れていることを示唆している。

 しかし、一連の動きから判断すると、核武装した北朝鮮という悪夢のようなシナリオは現実のものとなりつつある。このことは朝鮮半島や近隣地域、世界にまで安全保障上の影響を与えることになる。核保有国としての北朝鮮は、朝鮮半島における平和構築という理想とは相いれない。なぜなら、それは韓国にとって従来とは異なる甚大な脅威となるだけでなく、南北朝鮮の軍事バランスを根本的に変えることになるからだ。こうした状況下で南北朝鮮が平和的共存を達成する可能性は非常に低く、両国間で通常兵器と非通常兵器の軍拡競争が激化するであろう。

 北朝鮮による核開発への危険な冒険は、近隣諸国に新たな軍拡競争をも容易に引き起こしかねない。このことは、韓国や日本の核武装への動きを正当化することになるだろう。特に日本は、財政的、技術的能力を有しており、すでに40.6トンのプルトニウムを蓄積している。日本政府が核兵器保有に向けて政策決定すれば、これらのプルトニウムから核兵器を造るのは時間の問題である。

 台湾も核保有国への仲間入りを決断する可能性がある。そうなれば、中国は核兵器を増強するだろう。北朝鮮の核兵器開発が引き起こす核のドミノ効果は、北東アジア全体を終わりのない安全保障のジレンマへと陥れかねないのである。

 核武装した北朝鮮は、世界の安全保障をも脅かすことになる。北朝鮮は、探知が困難で、他者へ容易に売り渡すことのできる小型の核爆弾を製造する能力があると伝えられている。これまでの北朝鮮の行動を考えれば、核物質が世界のテロリストらの手に渡ることが大いに憂慮される。さらに、北朝鮮の核武装を防ぐことができなかった場合、イランのような国々が北朝鮮の後に続こうとし、現行の核拡散防止条約(NPT)の決定的な弱体化を招くであろう。

 では、こうした核によるジレンマの解決策には何があるのか。軍事行動を提案する人たちもいるが、私はそうしたアプローチには懐疑的である。北朝鮮の核施設への局所攻撃が、期待されるような政治的・軍事的目的を達成するとは考えにくい。それどころか、壊滅的なまでの紛争拡大をもたらすだろう。また、米国が中国や韓国の反対を押し切って、北朝鮮に対し単独で軍事行動を起こすとは想像し難い。

 最善のアプローチは、最終的に金正日体制がおのずと変化をきたすことを願い、北朝鮮を孤立させ封じ込めることによる敵対的無視の戦略だという人たちもいる。このアプローチにも欠陥があるように思われる。このような行動は、北朝鮮の選択肢をより少なくすることになり、現在の核の手詰まり状態を改善するというより、悪化させることになるだろう。国民にさらなる苦難を強いながら、金正日政権の権力基盤を固め、軍事力の戦略的地位を強化し、現体制の存続を長引かせることにしかならない。中国が正当な理由なしに、こうした孤立や封じ込めにより変化を求めるという戦略を支持する可能性も低い。

 私は、平和的かつ外交的手段を通じた交渉による解決と、他国の関与を通じた北朝鮮の漸進的変化こそ、唯一有効なアプローチだと考える。この意味において、6カ国協議の再開が望まれる。さらに2005年9月19日の共同声明と、2007年2月13日の協定で示された合意事項は、即刻実行に移されるべきである。ただ北朝鮮の核問題は、北朝鮮が核保有国だと主張しているため、一層複雑化している。そこで私は、3段階のアプローチを提案したい。

 第1に、6カ国協議の枠組みにおける2国間による努力が求められる。北朝鮮と米国が2000年10月に同意し、共同声明に明記したように、北朝鮮が核開発プログラムや核施設、核物質を検証可能な方法で廃棄することの見返りとして、米国は敵対的な意思表示や政策を撤回し、北朝鮮の主権を尊重し、平和的共存を図りながら外交関係を正常化すべきである。外交上の承認は、贈り物として交渉の最終段階まで取っておくのではなく、先手の動機付けとして使われるべきである。北朝鮮の主権と独自性を認め、安全保障上の懸念を少なくすることは、相互信頼を構築するための重要な基盤となり得る。

 第2に、北朝鮮の核兵器を廃絶することは、はるかに困難な作業となるだろう。自国の安全保障が同時に保障されない限り、北朝鮮が検証可能かつ不可逆的な方法で核兵器を解体することはあり得ないだろう。従って、すべての関係国(北朝鮮、韓国、米国、中国)が、現在の停戦合意を、朝鮮半島における新たな実行可能な平和体制へと変換することが不可欠である。核問題を、朝鮮半島における全体の平和体制の問題と結びつけることで、交渉の実質的な進展が期待できるだろう。2007年10月4日の南北首脳会談の宣言文にうたわれているように、もし北朝鮮が核開発プログラムと核兵器の解体を目に見えて進展させるならば、他の関係国は朝鮮戦争の終結を宣言し、朝鮮半島に平和体制を構築するための首脳会談の開催も考えられる。

 第3に、朝鮮半島に平和体制を確立し維持していくためには、北東アジアの多国間安全保障メカニズムの確立が欠かせない。それには6カ国協議の枠組みの中で、地域的安全保障の協力体制を進展させるための真摯(しんし)な取り組みがなされるべきである。核のない南北朝鮮というだけでなく、核のない北東アジアについても話し合われるべきである。

 北朝鮮の核をめぐる窮状を解決するため、被爆地広島が果たすことのできる役割について最後に述べたい。学生時代、私は核抑止論信奉者だった。しかし、1976年8月に広島を訪問し、原爆資料館を見学した。そのとき、原爆がもたらした恐るべき破壊を目の当たりにした。

 私はそれ以来、断固として反核の立場を取り続けている。6カ国協議の特別会合を原爆資料館の会議室で開催することを提案したい。こうした場所で会議を開けば、すべての交渉当事者に核兵器について異なる視点を与えことになると信じるからである。

(2010年1月25日朝刊掲載)

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