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社説・コラム

コラム 視点「被爆66年を核軍縮・廃絶への確かな年に 被爆地の役割一層重要に」

■センター長 田城 明

 「戦争の世紀」といわれた20世紀の人類の歴史を教訓に、「平和の世紀」を願って船出した21世紀。しかし、その願いは2001年の「9・11米中枢同時テロ事件」を契機に始まった米国主導によるアフガニスタンへの空爆によって、あっけなくついえた。かの地では10年後の今も、戦争状態が続く。

   20世紀は同時に「核の世紀」とも呼ばれた。広島・長崎の悲惨な原爆体験にもかかわらず、米ソを中心に核軍拡競争へと発展。人類は核戦争の脅威にさらされ続けた。皮肉にも東西冷戦終結から20年を経た今、核保有国の増加や核テロ、偶発使用に伴う危険性は一層高まっている。

 5年ぶりに開かれた5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、こうした危険への認識を背景に「核兵器のない世界」実現に向けて努力することを誓い、64項目の行動計画を盛り込んだ最終文書を全会一致で採択した。「核兵器禁止条約の交渉検討」の文言も、初めて最終文書に盛り込まれた。その意義は、決して小さくない。非核兵器国や被爆者、世界の非政府組織(NGO)などによる核兵器国への強い働きかけがあってこそ、実現したものである。

 米国の平和運動家ジョディ・ウィリアムズさんや南アフリカ共和国のフレデリック・デクラーク元大統領ら歴代のノーベル平和賞受賞者、潘基文(バン・キムン)国連事務総長、政治家や政府高官、10代の若者に至るまで、今年の広島は海外から多くの人々を迎えた。そのほとんどが、核廃絶に果たす市民の役割の大きさ、原爆被害の実態を広める重要さを指摘し、被爆地とともに手を携えて行動していく決意を示してくれた。

 被爆者もまた、高齢や病をおして米国をはじめ、世界各地を訪ねて被爆体験を語り、核廃絶への願いを訴えた。被爆者や平和市長会議などの活動を通じたヒロシマ・ナガサキの訴えは、波動のように確実に世界に広まっている。

 しかし一方で、中東、南アジア、北東アジアでは、核兵器開発などをめぐって世界の軍縮の行方に大きな影響を与えかねない問題を抱えている。特に、北東アジアでは、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発に加え、最近の挑発的な軍事行動によって緊張がとみに高まっている。

 金正日(キム・ジョンイル)総書記から三男の金正雲(キム・ジョンウン)氏への漸進的な権力の移譲に伴い、外的な緊張を高めて国内体制の引き締めを図り、正雲氏の指導者としての地位を固める狙いがあるといわれている。「核抑止力」としての核兵器保有が、危険な軍事行動を取らせている一面も否定できない。

 理由はともかく、北朝鮮の核開発を断念させるには、北朝鮮の存続を認め、安全保障上の懸念を取り除く以外にないだろう。そのためには、中国による強い働きかけだけでなく、米朝2国間や南北間、日朝間の直接対話、そして6カ国による協議再開が待たれる。

 北朝鮮の危険な瀬戸際外交は、決して許されるものではない。だが、今、関係国に求められるのは、予期せぬ形で戦争に至ってしまいかねない過度な軍事的対応よりも、冷静な外交努力である。同じ民族同士が戦い、多数の犠牲者を出した60年前の朝鮮戦争の悲劇を繰り返してはならない。

 「6カ国協議を被爆地広島で開くよう、日本は率先して働きかけるべきだ」。韓国の学者や海外の平和運動家ら多くの人々から、こうした声を耳にしてきた。核戦争がもたらす悲惨な現実を体験した被爆地で話し合ってこそ、だれもがより謙虚になり、核兵器に依存することの愚かしさ、間違いに気づき、そこから実りある交渉の成果も生まれるだろうと考えるからだ。

 核問題が単に一国の安全保障の問題としてだけでなく、人類共通の安全保障にかかわる問題として受け止められるようになってきた。実現には過去の歴史へのわだかまりなど、さまざまな困難を伴うだろう。

 しかし、日本政府は「軍縮・平和」に果たし得るヒロシマ・ナガサキの世界的認知度を生かして、6カ国協議を被爆地で開くなど具体的な提案をすべきだ。将来は核保有国の米ロ2国間や多国間の核軍縮交渉の場としても生かせるだろう。「核の傘」という核抑止力依存の日本の矛盾した在り方も、こうした働きの中で変革を余儀なくされるだろう。

 積極的な平和外交を展開することで、世界の多くの国々や市民の支持を得る。日本にとって平和憲法を生かした、こうした「ソフトパワー」を活用することが、軍事力の強化よりも、はるかに日本の安全保障に役立つに違いない。

 間もなく被爆66年。戦争を否定し、核廃絶を希求する被爆地広島・長崎の役割は、国内、国外を問わず一段と重要さを増している。

(2010年12月20日朝刊掲載)

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