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社説・コラム

社説 放影研「黒い雨」データ まずは公開し解析急げ

 広島、長崎の原爆で「黒い雨」を浴びた約1万3千人分の調査データが残っていた。放射線影響研究所(放影研、広島市南区・長崎市)が保管している。

 雨に遭った場所や脱毛などの急性症状を聞き取っている。黒い雨では最大規模の記録とみられる。

 広島市や住民団体はデータの公開を求めている。黒い雨被害の援護対象となる国の指定地域拡大に結びつく可能性があるからだ。

 分析すれば、福島第1原発の事故で関心が高まっている放射性降下物の健康影響を解明する手掛かりとなるかもしれない。

 放影研はできるだけ早く内容を地元に公開するとともに、解析を急いでもらいたい。

 データは1950年代から60年代初頭にかけ、広島、長崎両市の被爆者約12万人を対象にした面接調査の一部である。

 「原爆直後に雨に遭いましたか」との設問に約1万3千人が「はい」と回答している。大半の約1万2千人が広島の人という。

 雨に降られた場所のほか、発熱や下痢など14種類の症状の有無や程度、発症した時期についても尋ねている。

 長崎市の医師が約40年前の英語論文を見つけたのを機に、データの存在が広く明るみに出た。

 現在の放影研は日米共同運営の財団法人だが、調査や論文執筆時は前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)の時代。米国の意に沿った研究が行われていたとされる。

 黒い雨に関する分析はその後、中断したようだ。これも、放射性降下物の人体影響を伏せておきたかった米国の意図ではないかとの見方も出ている。

 ABCCや放影研は主に、被爆者が直接浴びた放射線量と健康影響との関連を調べてきた。しかし入市被爆や黒い雨については、ほとんど研究が進んでいない。

 放影研は、設問自体が寿命調査の参考にする補足的なものと説明する。ABCCがデータを公開しなかったのは「統計的に偏りが大きく、科学的にあまり価値がないためではないか」とみる。

 とはいえ1万3千人がどこで雨に遭ったのかは分かるだろう。降雨地域の全体像の解明につながる可能性もある。

 黒い雨では、厚生労働省が広島の指定地域見直し作業を進めている。作業グループが12月下旬にも報告をまとめる予定だった。今回のデータも検討対象に加えるべきではないか。

 現在の降雨地域の線引きは大ざっぱと言わざるを得ない。終戦直後に気象台員が100人余りの住民に聞き取った調査に基づいている。ところが広島市が2008年に行ったアンケートでは、1500人余りの回答を分析すると雨域は3倍に広がった。今回のデータに注目が集まるのも当然だろう。

 放影研は、急性症状とのクロス分析などを通じて黒い雨の人体影響を少しでも明らかにする必要がある。低線量や内部被曝(ひばく)の影響を知るうえでも意義は大きい。

(2011年12月14日朝刊掲載)

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