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社説・コラム

社説 金正日総書記死去 権力移行時の混乱防げ

 北朝鮮の最高指導者、金正日(キムジョンイル)総書記が死去した。列車内で心筋梗塞を起こしたという。突然のニュースが周辺諸国に衝撃と不安を広げている。

 核兵器・ミサイル開発を進め、日本人拉致にも関わっている。独裁者の死去は、その権力が強大なだけに、後継体制へと移行する際にさまざまな不安定要因を伴う。韓国や米国とも連携し、動きを注視する必要があろう。

 8月にはロシア、中国を歴訪していた。先週も国内を視察する様子が報じられていた。健康の悪化は唐突だったようだ。

 しかも父親である故金日成(キムイルソン)主席の生誕100周年となる来年を「強盛大国の大門を開く」重要な節目と位置付けてきた。急死に指導部も動揺しているに違いない。

 北朝鮮メディアは三男の正恩(ジョンウン)氏を後継者と強調している。昨年9月、党中央軍事委員会副委員長に就任。金総書記の国内視察や海外要人との会談時にも同席し、権力移行の足場固めを進めていた。

 とはいえ、まだ20代である。統率力には疑問符が付く。補佐する親族ら後見人に囲まれ、実質的な集団指導体制になるのではとの見方もある。

 30代で政治局員に選ばれ、後継者としての地歩を固めた金総書記は、金主席が死去するまでの20年をかけて権力を掌握した。

 これに比べても新体制の基盤が脆弱(ぜいじゃく)となる面は否定できまい。外向けに勢力を誇示して国内を引き締めるため、韓国などへ軍事的な挑発行動に出るかもしれない。

 窮乏した国民が相次いで国外に脱出する混乱も起きかねない。

 金総書記は2000年と07年に韓国大統領と会談。02、04年に当時の小泉純一郎首相と会うなど対話姿勢を見せる場面もあった。

 だがその一方で、危機感をあおって米国に譲歩を迫る「瀬戸際戦術」を繰り返してきた。

 核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言し、06、09年に核実験を強行した。その後もウラン濃縮の着手を表明している。

 軍事優先の「先軍政治」を貫き、このところ韓国との緊張も高まっていた。昨年3月には韓国の哨戒艦を撃沈した疑いがあり、11月には延坪島(ヨンピョンド)を砲撃している。これらは正恩氏が軍を掌握して暴走したとの見方もある。

 当面、先軍政治が受け継がれる可能性は高い。だがそれは自国が衰退する危険性もはらむ。食糧難や物資不足の解消は遠のき、国際社会との対話は閉ざされる。

 今年に入ってロシアの研究所が「体制崩壊が進行中」「20年代には韓国主導の統一過程に入る」と分析したのも、こうした混乱が予測されるためのようだ。

 後ろ盾となってきた中国は、北朝鮮の新指導部の自制を求め、偶発的な動きを抑える役割を果たしてもらいたい。

 日本政府も韓国などとともに体制移行時の混乱回避に努めるべきだ。東アジアの安定に向け、対話の場を再構築しなければならぬ。

(2011年12月20日朝刊掲載)

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