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社説・コラム

社説 原子力規制委 新政権でも役割は不変

 発足から3カ月。原子力規制委員会の存在感が増している。原発敷地内の断層調査で事業者の言い分を覆し、活断層リスクを厳しく指摘しているからだ。

 福島第1原発事故の教訓を生かし、独立性の高い組織として客観的な審査をする。その使命において、国民が期待する役割を果たしているといえる。

 政権交代は26日だ。原発再稼働の是非をめぐる議論が活発化する可能性もある。「番人」としての真価が問われてこよう。

 電力会社が「活断層ではない」と結論付け、国が十分なチェックなしに追認する。規制委の調査団は、こうした長年の構図にメスを入れつつある。

 先週の規制委による専門家会合では東北電力の東通原発(青森県)敷地内の断層について、活断層の可能性が高いとの見解で一致した。「地下水の影響で膨張」とする電力会社側の見方を完全に退けた格好になる。

 リスクを最大限に考える原則からは妥当な判断だろう。このままなら早期再稼働どころか運転休止の長期化は免れまい。

 2週間前の日本原子力発電の敦賀原発(福井県)内の断層調査でも、会社側が長く否定してきた原子炉直下の活断層の可能性を指摘した。こちらは廃炉の公算が大きくなっている。

 一方で断層調査の過密さが目につくのも確かだ。政権交代を前にした微妙な時期だけに「拙速」との批判もあるようだ。

 事業者側も反発し、十分な説明や再調査を求めている。規制委側が活断層と考えるなら科学的な根拠を丁寧に示すのは当然だ。しかも突き放すのではなく相手と十分議論し、納得させる姿勢も求められよう。仮に廃炉にするとしても事業者側が動かないと前に進まないからだ。

 規制委は会議資料などをインターネットで速やかに公開している。透明性を図る努力は伝わる。加えて専門的な中身でも国民にかみ砕いてもらいたい。

 規制委の断層調査は6カ所だけ。旧原子力安全・保安院時代に疑問が浮上していたものだ。他の原発は本当に大丈夫か。国民からすれば知りたい。規制委の独自判断で、さらに調査を広げることはできるはずだ。

 一方で規制委は、来年7月までに原発の新しい安全基準をつくる義務を負う。こちらもしっかり取り組むべき課題である。並行し、断層調査をどう強化するかを考える必要があろう。

 規制委の弱点も克服したい。5人の委員は国会承認を得ず、野田佳彦首相の専権事項で決めたにすぎない。規制委の仕事が軌道に乗りつつある以上、新しい自公政権はこのまま国会承認を急ぐべきではないか。

 ここで気になるのが自民党のスタンスである。

 安倍晋三総裁は原発の新増設はしないとした民主党政権の原則を再検討する考えを示している。一方、再稼働については政権公約で「3年以内の結論を目指す」としているが、自民の中には早期の再稼働を願う声も少なくない。衆院選の結果に電力業界が喜びを隠せなかったのも、そのためだろう。

 規制委の田中俊一委員長は政権交代後も独立性は保たれると強調している。そもそも思い返せば原発の番人の独立性を求めたのは自民党のはずだ。「原子力ムラ」の意向で政治介入することはあってはならない。

(2012年12月23日朝刊掲載)

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