×

社説・コラム

社説 原発ゼロ「見直し」 反省なき判断は危うい

 新政権は、2030年代に「原発ゼロ」にするとした民主党政権の方針を見直すという。茂木敏充経済産業相が就任会見で言及した。

 しかも中国電力上関原発(山口県上関町)をはじめ、これまでは論外とされてきた着工前の原発計画も「政治判断する」という。将来的に認可もあり得るということだ。衆院選の政権公約にも明記されていなかった。

 多くの有権者にとっては「話が違う」という受け止めではなかろうか。

 東京電力福島第1原発事故を受け、民主党政権が曲がりなりにも表明した「原発ゼロ」方針である。「脱原発」を望む世論を反映させたはずだ。政策転換には、どのような背景があったのだろうか。

 産業界への配慮があるのは明らかだろう。太陽光など再生可能エネルギーでは電力需要を賄えないとみている。化石燃料の輸入で補うより、原発を稼働させたほうが安い―。経済優先の原理が垣間見える。

 だが、それでは福島の原発事故の教訓が全く生かされない。安全神話を信じて疑わず、地震列島のあちこちで原発建設を後押ししたのは、かつての自民党政権だった。

 事故は起きないと、地方に原発のリスクを押しつけてきた。官民がもたれ合って安全対策をないがしろにしてきた「原子力ムラ」の構図が、3・11によって浮き彫りにされたはずではなかったか。

 いま原発敷地内にある活断層の存在が、原子力規制委員会による調査で次々と明らかになっている。こちらも、かつての「ムラ」に政策を委ねてきたひずみが露呈したといえよう。同時に、十分なチェックなしに追認してきた国の責任は重い。

 古里が放射能に汚染され、健康不安を抱えながら暮らす福島県民の痛みを、自民党は忘れたわけではないだろう。「もう原発はいらない」という被災地の願いをもっと真摯(しんし)に受け止めるべきである。

 「速やかなゼロ」を目指すとした連立相手の公明党とは、「可能な限り原発依存度を減らす」との方針で合意したはずだ。新増設は明らかにそれとは矛盾し、政権内の不一致とも受け取れよう。

 茂木経産相は使用済み核燃料の再処理を継続する意向も示し、「完全に放棄する選択肢はない」と言い切った。「原発ゼロ」方針を見直すのだから、核燃料サイクルの継続は当たり前と言うのだろう。

 日本が再処理で生じる余剰プルトニウムを抱え続けることに、国際社会は強い憂慮を示している。それでは国内外にも説明がつくまい。

 なぜ福島の事故が起きたのか。総括は済んでいないはずだ。政権与党として、事故の反省をエネルギー施策にどう生かすつもりなのかも分からない。その段階で、担当閣僚が新増設にまで踏み込んで言及することに違和感を覚えざるを得ない。

 3年間で再稼働の可否を判断し、10年間で再生可能エネルギーなどとのベストミックスを考えていく―。就任会見で原発政策について聞かれた安倍晋三首相は、政権公約と同じ言葉を繰り返すにとどまった。少なくともその言葉通り、慎重に議論を重ねることが求められる。

(2012年12月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ