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社説・コラム

反核・平和の思い重なる 前田・カトリック広島司教区長に聞く

 世界約12億人のカトリック信者の頂点に立つ新ローマ法王(教皇)に、中南米から初となるアルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)が選ばれた。教皇名はフランシスコ。中国地方を管轄する広島司教区の教区長、前田万葉司教(64)に、新教皇に寄せる思いと、司教区としての今後の取り組みについて聞いた。(伊東雅之)

包容力と行動力に期待

 新教皇はイエズス会という修道会の出身で、そこでの教え子5人を日本に派遣。25年前、その縁で来日したこともあるそうだ。教え子の1人が、私の郷里長崎にある日本二十六聖人記念館の館長で、旧知の司祭。親しみを感じる。

 広島司教区には、山口、広島県を中心にイエズス会員が多い。16世紀に同会のフランシスコ・ザビエルが、山口に赴いたことも関係しているのだろう。

 そのザビエルの洗礼名も新教皇と同じくフランシスコだ。フランシスコは12、13世紀のイタリア・アッシジ出身の聖人で、裕福な家庭に生まれながら、財産をなげうって貧しい人たちを救済した。

 そして、平和の使徒としてもあがめられている。「憎しみのあるところに、愛を」「絶望のあるところに、希望を」「理解されることよりも、理解することを」「愛されることよりも、愛することを」などの言葉が続く、彼の「平和の祈り」が知られているからだ。

 新教皇がこの名前を選んだと聞いたとき、反核・平和を訴えてきた当司教区の思いと重なると感じた。新教皇は長年、貧しい人々に寄り添うなど現場主義を貫いてきた人だけに、その包容力と行動力に期待したい。

 「キリストに根差した平和」を強調している点にも注目している。それは、フランシスコの平和の祈りにもあるキリストの精神を基盤にしよう、との信者への呼び掛けでもある。新たな争いを起こしかねない名誉欲から解き放たれ、信仰とは何かを考え直すきっかけにもなる。

 他の宗派や非政府組織(NGO)の平和活動も、崇高な精神、理念に基づいているはずで、互いにそうした心の支柱を尊重し合い、「平和」という共通の目標に進むことが望ましいと思う。

 中南米から初の教皇という点に時代を感じる。いまや世界最大の信者数の中南米。選ばれるのは自然だろう。

 そんな時代に即した柔軟性は、われわれにも求められている。教会の現代化などを打ち出した「第2バチカン公会議」の開会から50年を迎えた昨年から、当司教区でも改革を進めている。

 例えば、司祭の高齢化と減少に歯止めをかけるため、育成に向けた教育機関と教材づくりに取り組んでいる。目標は10年間で5~10人。フィリピン、ブラジル、ベトナムなど外国人信者が増えている現状から、外国人司祭も視野に入れている。

 私自身、考え方が変わったところもある。母が長崎で被爆したにもかかわらず、これまでそれほど平和活動に熱心でなかった。広島に赴任した1年半前からこの地で被爆の惨劇を学び、母の話も交えて修学旅行生に話し始めた。すると全国の子どもから「平和の大切さを感じた」と多くの手紙をもらうようになった。現場から発信する力の大きさと意味を知った。

 ことしは当司教区創設90周年でもある。この大きな節目に恥じない活動を進め、新教皇と面会した際には広島訪問も呼び掛けたい。

(2013年4月1日朝刊掲載)

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