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社説・コラム

社説 電力改革 発送電分離できるのか

 東京電力の福島第1原発の事故をきっかけに動きだした電力改革である。政府はきのう、電気を消費者に届ける仕組みを抜本的に改める方針を閣議で決定した。

 改革は3段階だ。まず2015年に全国の電力需給を広域的に調整する機関を設ける。続いて16年に電力会社が地域独占する家庭向けの電力小売りを全面的に自由化する。さらに18~20年をめどに、電力会社の発電部門と送配電部門を別会社にする「発送電分離」を目指す。

 第1段階について政府は今国会に電気事業法改正案を提出する。その先の改革は今後、段階的に法案を出すという。

 方針の中身通り改革を進めれば、消費者の選択を広げられよう。ただ実施の時期はスピード感に欠けると言わざるを得ない。とりわけ発送電分離は遅れが目立つ。全面自由化の時期に合わせられるよう、もっと急ぐことはできないのだろうか。

 電力改革の議論は以前から交わされてきた。それが本格化したのは、原発事故の後である。多くの国民が長年にわたる電力会社の地域独占体制に疑念を抱いたからだろう。

 そうした世論を受け、民主党政権は2030年代の原発稼働ゼロを目指す方針とともに、発送電分離を柱とした電力改革を打ち出した。

 昨年12月に政権の再交代を果たした安倍晋三首相は、民主党政権の原発政策を見直すと表明している。半面、電力改革については前政権の方針を引き継いだようにみえる。

 安倍政権の成長戦略の柱となる規制緩和の一つととらえ、今夏の参院選でもアピールしたいようだ。中身は同じでも、改革の意味合いが変わった印象を受ける。

 自民党内では、発送電分離に慎重な意見が根強い。長く関係がある電力会社が、電気の安定供給に支障が出ると主張しているためだ。

 安倍政権が当初、発送電分離の関連法を「15年の通常国会に提出する」としていた案より方針を弱め、「提出を目指す」としたのも党の意向に配慮したからにほかならない。これでは実現性に疑問を持たれても仕方あるまい。

 なぜ電力改革が必要なのか、原点を忘れてはならない。発送電分離で送配電網が広く開放されれば、電力会社と新規参入の発電事業者の競争が進み、料金やサービスの多様化が見込まれよう。

 例えば、太陽光や風力など再生可能エネルギーだけで発電する事業者が参入する可能性がある。料金は高めでも原発に依存しない電気を買いたい消費者には、有力な選択肢となる。

 巨大な従来の電源集中型から分散型へと移行を促すことは防災の観点からも重要だろう。地域で発電する電気を地域で利用する「エネルギーの地産地消」も進めやすくなる。

 もちろん安定供給のための仕組みづくりは欠かせない。先行した米国では、送配電網の管理がおろそかになり、停電が発生した事例がある。一方、送配電網にも新たな投資がなされるよう、制度設計した欧州の成功事例も出ている。

 これらの教訓を生かし、制度を骨抜きにせず、有効なものにしなければならない。

(2013年4月3日朝刊掲載)

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