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社説・コラム

社説 鳥インフル感染 慌てず しっかり備えを

 中国で「H7N9型」と呼ばれる鳥インフルエンザに感染し、亡くなる人が出ている。

 この型のウイルスは毒性が弱いと思われていた。ところが、動物の体内で変異して毒性を強めたらしい。感染ルートも不明で、今後も患者が増えるかどうかは予断を許さない。

 一方、タミフルなど既存の治療薬が効くとの情報もある。いたずらに慌てず、だが備えは怠らずに成り行きを注視したい。

 患者は上海とその周辺で2月以降に発症した。きのうまでに18人の感染が判明し、うち6人が死亡している。

 世界保健機関(WHO)によると、H7N9型の人への感染が確認されたのは初めて。戸惑いもあろうが、中国政府は患者の治療と感染の拡大防止に全力を挙げてもらいたい。

 専門家によると、鳥の体内で3種類のウイルスの遺伝子が交じり、毒性の強いタイプに変わった可能性があるという。

 厄介なのは、感染ルートが分からないことだ。感染したハトなどが市場で見つかったが、野鳥も含めて大量死したとの情報はない。こうした事情から、患者がどこで何から感染したかが確認されていない。

 対策の焦点となる、人から人へと感染したかどうかも現時点では判然としない。いずれにしてもウイルスがさらに変異し、感染力を強める懸念が残る。

 鳥ウイルスでWHOや各国が最も警戒してきたのは、アジアで死者が相次ぐH5N1型だった。ただ、これまでは散発的な感染にとどまっている。

 2009年に「パンデミック」と呼ばれる世界的な大流行を起こしたのは、豚を通じてのH1N1型。日本は空港での体温チェックなど大がかりな水際作戦を敷いたが、食い止められなかった。もっとも、当初心配したほど毒性は強くなかった。

 ウイルスの素性がまだ詳細に突き止められていない今回は、どう対応すればいいのだろう。

 気になるのは、中国側の発表が最初の死者から1カ月後と出遅れたこと。10年前に中国で新型肺炎(SARS)が大発生した際に批判を浴びた「情報隠し」が思い出される。

 中国政府は包み隠しをせず、徹底して情報公開すべきだ。WHOなど国際機関との連携を強め、医療従事者の体調管理なども怠りなく進めてほしい。

 ワクチンについては既に日米が開発・製造に向けて動きだしている。国際協力によりスピードアップを図りたいところだ。

 上海にはビジネスや観光で日本人をはじめ多くの外国人が訪れる。厚生労働省は不用意に動物に近づかないことや、手洗いの励行などを促している。滞在中や帰国後に体調を崩した人はためらわずに受診しよう。

 私たちも用心しておきたい。感染者が出ても慌てないように職場や家庭で対応を再確認しておこう。自治体や医療機関は、流行の段階に応じた体制の再チェックが求められよう。

 昨年成立した新型インフルエンザ流行防止の特別措置法について、政府は施行を今月中へと前倒しする意向のようだ。

 新法では、人が集まる施設の使用制限などの権限が自治体に与えられる。私権の制限と感染の拡大防止と、どうバランスを取っていくのか。今のうちからの論議が欠かせまい。

(2013年4月6日朝刊掲載)

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