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社説・コラム

社説 朝鮮半島緊迫 暴挙をどう食い止める

 朝鮮半島をめぐる情勢が、緊迫の度合いを増してきた。

 国連制裁の強化に反発し、挑発的言動を繰り返してきた北朝鮮が、新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」を週内にも発射する可能性が出てきたからだ。

 先週には核兵器の原料となるプルトニウムを抽出する核施設の再稼働も一方的に表明した。なりふり構わぬ「瀬戸際戦術」も極まったといえる。

 北朝鮮の指導部は、不測の事態を引き起こしかねない深刻な状況を正しく認識しているとは到底思えない。

 これ以上の暴挙を食い止めるにはどうすればいいか。国際社会全体で対応を急ぐべきだ。

 まず懸念されるのは、日本海側への移動が伝えられたムスダンの不意打ち発射だ。予想される性能では、米軍基地のあるグアムまで達しうる。

 米国への先制攻撃まで口にしている北朝鮮だが、直接の軍事行動に出るとは考えにくい。本当に発射するとすれば軍事演習などの名目で公海上にミサイルを発射し、新たな威嚇とする狙いなのかもしれない。

 だが北朝鮮の弾道ミサイル発射は、もとより国連決議に違反する。従来は予告して「人工衛星打ち上げ」と言いつくろってきたが、軍事用であることが名実ともに露呈すれば国際社会に牙をむいた形になる。その意味を分かっているのだろうか。

 場合によっては日本国内の米軍基地も標的となりうる、というのが北朝鮮側の脅しだ。わが国も備えは求められる。政府は自衛隊に対し、領域内に落ちる場合の破壊措置命令を出した。当面、迎撃ミサイルを載せたイージス艦が警戒に当たる。

 発令の事実を公表しなかったのは「手のうちを見せたくない」が大きな理由だ。北朝鮮が仮想敵としている米国の艦船とも連携して動くからだろう。日米ともに、北朝鮮情勢に対する危機感が近年になく高まっているのは確かである。

 半面、現実的な脅威がどれほどなのか、冷静に見極める必要もあるのではないか。

 例えば北朝鮮ミサイルに対応するとして米国はグアムへの高性能迎撃ミサイル配備を決めたが、むしろ軍事力を増す中国に対する戦略だとの指摘もある。

 東アジアの軍事バランスを崩しかねない基地機能の強化を考える前に、まずは北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記に現実を直視させ、自制を求める手だてをもっと尽くすべきではなかろうか。

 北朝鮮が挑発をエスカレートさせた理由の一つに、米国が韓国との合同軍事演習で戦略爆撃機やステルス爆撃機を参加させたことがある。必要以上に刺激することは避けたい。

 北朝鮮は国際社会から孤立している。2月の核実験強行で頼みとしていた中国やロシアからも愛想を尽かされた格好だ。

 核・ミサイルの開発で第1書記の権力固めを図り、米国との交渉で援助を引き出す戦術も破綻したと言わざるを得ない。

 北朝鮮との対話は必要だが、核開発を安易に認めてはならない。このままなら自滅の道を歩み、多くの国民が苦しむことを周辺国から粘り強く伝え、非核化の道に立ち戻らせたい。

 そのためにも関係が悪化している日本と中国、日本と韓国は北朝鮮政策において緊密に連携する必要がある。

(2013年4月9日朝刊掲載)

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