×

社説・コラム

天風録 「ためつすがめつ」

 瀬戸大橋の開通前、いやに熱心に橋桁の高さをほじくる記者仲間がいた。紙面で日の目を見ないまま、事の次第を後日耳にした。米軍の空母がいざというとき、橋をくぐり瀬戸内海に回ることはないのかと探っていたという▲ほう、そんな見方も成り立つのかと虚を突かれた覚えがある。25年前の当時はまだ東西冷戦のさなか。ぶ厚い「鉄のカーテン」に穴があいたのは翌年である。うがちどころに事欠かない時代だったのかもしれない▲東の新名所にも、ためつすがめつの視線を向けた人がいる。「原爆の炸裂(さくれつ)はあの高さにてスカイツリーのつひに完成」(三浦好博)。戦中生まれの作者は千葉住まい。地上634メートルという数字からヒロシマを思い起こすとは▲爆心の高度約600メートルに合わせ、広島の地に観光タワーを建てる話が持ち上がったことがある。くしくも瀬戸大橋の開通と同じ年。「原爆は売り物なのか」と被爆者の総すかんで、立ち消えになったのも無理はない▲今ならば上京ついでにスカイツリーを見上げ、こう言い添えればいい。「あの高さでリトルボーイは爆発したんです」。開業1年たっても押すな押すなの、東京詣での定番が平和学習の場に変わる。

(2013年4月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ