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社説・コラム

社説 NPT準備委 被爆地の声を踏まえよ

 北朝鮮とイランの核問題が深刻さを増す。すでに核兵器を持つ国は「特権」にあぐらをかく。そんな状況をいつまでも続けていていいはずがない。

 約190カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会が、スイスの国連欧州本部で開幕した。核軍縮義務、核不拡散、原子力の平和利用をめぐり、3年前の再検討会議で採択された行動計画の履行状況などを議論する。

 広島市の松井一実市長、被爆者団体メンバーらも現地入りした。核兵器廃絶への行動を各国代表に働き掛けるためである。

 広島1区選出の岸田文雄氏が外相を務めてもいる。日本政府が被爆地の願いに沿ったイニシアチブを発揮するよう、これまで以上に期待されている。

 日本は初日に演説した。オーストラリアなどと結成した非核保有国の有志国グループ「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)」の活動や、若い人を非核特使として海外に派遣する方針などをアピールした。

 被爆国による、こういった核軍縮の取り組みは評価されていい。多国間の核軍縮条約はいまのところNPTしかない。条約の信頼性を高める努力が肝心であることは議論をまたない。

 だが現実には、NPT体制は逆風続きではないか。

 核兵器の材料物質を規制する、兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始に向けた議論は手詰まりが続く。包括的核実験禁止条約(CTBT)は発効しないまま、北朝鮮が核実験を重ねる。

 そもそもNPTは、米国、ロシアなど5カ国には核保有を認めるという矛盾がつきまとう。核保有国はNPT体制を称賛し、核軍縮の枠組みはこれで十分だと強弁してきた。一方、多くの非核保有国は不満を募らせ、新たな廃絶努力の枠組みが必要だと反発する。

 両者のあつれきは深刻になるばかりだ。準備委員会で日本代表と前後して登壇した非核保有国は「核軍縮が進んでいない」と保有国を追及し、「核兵器禁止条約が必要。むしろNPTは強化される」などと説いた。

 加えて今回、そんな現状の打開を目指す非核保有国の提案が目立つ。「核兵器がいかに非人道的な結果をもたらすか」という観点から廃絶を求める主張である。どんな国であれ核開発や保有を非合法化する条約を、という長期目標が念頭にあるとみられる。

 被爆者は、核兵器は非人道的であり全面的に禁止されるべきだと訴えてきた。やっと各国が政府レベルで向き合い始めたということだろう。

 北朝鮮、核保有国の中国と隣り合う日本としても、賛同すべき切り口であるはずだ。

 ところが、煮え切らない。南アフリカなどが、非人道性を理由に「いかなる状況下でも核兵器が再び使用されない」ことを求める内容の共同声明を準備した。日本も賛同を求められたが、政府は即答しなかった。

 「核の傘」の有効性が揺らぎかねないから、という理由らしい。米国の核兵器を非合法化する動きにつながることへの警戒心が見え隠れする。

 被爆国のそんな態度が果たして、広島、長崎の被爆者に堂々と説明できる核軍縮外交といえるのだろうか。

(2013年4月24日朝刊掲載)

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