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社説・コラム

『中国新聞を読んで』 石橋留美子 「秘密保護」議論徹底を

 特定秘密保護法案が26日、衆院で可決された。機密の漏えいを禁じ、流出させた公務員らに最高で10年の懲役、漏えいを唆した者には5年以下の懲役を科す。国民の了解が不十分なまま、12月6日の会期末までの成立を目指す姿勢は納得し難い。

 中国新聞は、国民の知る権利や表現の自由への影響を中心に、多くの疑問や問題点を報じ続けた。

 特定秘密の範囲は曖昧で、国民にも報道関係者にも何が秘密か分からない。都合の悪い情報を権力者が秘密に指定する懸念もあるという。例えば原子力発電所の事故時に、テロ対策を理由に住民の避難に必要な情報すら隠蔽(いんぺい)できる。知る権利どころではなく、国民の命を軽んじる行為につながりかねない。

 紙面で紹介した有識者からは、戦前の思想弾圧のように市民団体の取り締まりに使われる恐れをはじめ、刑事裁判での被告の人権や地方自治体の情報公開への甚大な悪影響など、懸念の声が続出した。

 安倍晋三首相は特定秘密の保護が「わが国や国民の安全確保のために必要だ」として法の成立へ強い意欲を示す。

 しかし、忘れてならないのは憲法が最高法規であることだ。知る権利と取材報道を含む表現の自由は憲法21条で保障されているが、これらへの配慮や免責規定は当初案にはなかった。修正案でも、第三者機関の設置をはじめ不透明な部分が多い。

 今回の法案は、どうみても憲法違反ではないか。憲法改正へ向けた動きと合わせて、最高法規が骨抜きにされ、国民主権はどこかへ吹き飛んでしまわないかと危惧する。

 法案の内容は新聞を読み込んでも理解しづらい点が多いが、私たち国民は無関心であってはいけない。時間がない中で、行く末を注視するしかすべはないのだろうか。

 ジャーナリズムにとっても、存在意義を揺るがしかねない事態を迎えていると思う。中国新聞は、秘密保護法の成立を阻止するためにも、参院で国民の疑念が解消されるまで議論を尽くすよう訴えてほしい。気が付いたら日本は戦争に向かっていたという事態だけは、あってはならない。(読者モニター=益田市)

(2013年11月30日朝刊掲載)

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