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社説・コラム

社説 特定秘密保護法案 テロの定義があいまい

 多くの国民が不安を感じたことだろう。自民党の石破茂幹事長が自身のブログで、特定秘密保護法案に反対するデモをテロになぞらえた問題である。

 法案が定める特定秘密4分野の一つがテロ防止だ。もしデモをテロとみなすのであれば、幅広い国民が監視の対象となる可能性があろう。言論や表現の自由が脅かされかねない。

 石破氏はブログでの発言を陳謝し一部を撤回した。これを受け、菅義偉官房長官はきのう、秘密保護法案を今国会の会期末である6日までに成立させたい意向を重ねて示した。

 しかし法案への懸念を広げたのは、ほかならぬ与党の幹部である。審議時間を一方的に区切る強引な姿勢は許されない。

 もともと法案が定めるテロの定義はあいまいと批判されてきた。「政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強要し、または社会に不安もしくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、または重要な施設その他の物を破壊するための活動」。12条はこう規定する。

 森雅子内閣府特命担当相はこれまでの国会審議で、人を殺傷したり施設を破壊したりしなければテロには当たらないと答弁してきた。

 だが「または」という接続詞につながれた条文の文言だけを読めば、主張を強要するだけでテロになるとも受け取れる。これではデモに限らず、さまざまな言論活動もテロになってしまうと指摘されていた。

 疑義が深まる中で出てきたのが、石破氏のブログ発言である。特定秘密を決める側の本音ではないのかと、国民がいぶかるのは当然だろう。

 法案の中身があいまいなのはテロの定義に限らない。衆院から審議の場を移した参院の特別委員会でも、政府の答弁はぶれ続けている。

 例えば、秘密指定の妥当性をチェックする第三者機関をどこに設けるかである。森担当相が行政機関の内部と外部の両方の可能性に言及しているのに対し、礒崎陽輔首相補佐官は「行政から完全な独立ではない」とちぐはぐだ。

 透明性を確保するための重要な論点であるにもかかわらず、政府内で方針がまとまっていない証拠だろう。法案自体が生煮えと言わざるを得ない。

 きのうの参院特別委の参考人質疑で、招かれた3人全員が法案の慎重な審議や廃案を求めたことも重く受け止めなければならない。日弁連の江藤洋一氏は石破氏の発言に触れ、法案が言論弾圧や政治弾圧に利用される恐れがあると指摘した。

 石破氏は発言の撤回後、大音量のデモについて「本来あるべき民主主義の手法とは異なる」との見解をあらためて示した。ただ、それを言うのなら、国民が抱く疑念が払拭(ふっしょく)されていないのに秘密保護法案の成立を急ごうとする政府・与党の姿勢ではないか。

 野党7党は法案の慎重審議を求める共同声明をまとめた。与党が何もなかったように、数の力で法案を押し通すことがあってはなるまい。国民が全てを白紙委任しているわけではないことを忘れてもらっては困る。

 少数意見でも、しっかり耳を傾けるのが民主主義だろう。政府・与党は今国会での法案成立にこだわるべきではない。

(2013年12月4日朝刊掲載)

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