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社説・コラム

社説 秘密保護法公布 チェック機能働くのか

 参院本会議における深夜の採決強行から1週間。きのう特定秘密保護法が公布された。

 政府は法律で定める1年以内の施行に向け、一気に前へ進める構えなのだろう。具体的な作業に向けた準備室が早速、内閣官房に置かれた。

 だが「知る権利」が損なわれる恐れがあるとして国民の懸念はなお強い。数を頼みに押し通した安倍晋三首相の姿勢への疑問は、各種世論調査の内閣支持率急落にも表れていよう。

 首相は施行準備を急ぐよう指示したが、今はまだ、それ以前の段階ではないか。

 安全保障、外交、テロ対策などの重要情報を漏らした側に加え、唆した側も厳罰とする法律である。大きな焦点は、対象とする「特定秘密」の指定が妥当かどうかをチェックする機能が働くかどうかだろう。

 臨時国会の終盤、野党側の批判を抑えるために検証機関の案が泥縄式にいくつも浮上した。いま政府側は矢継ぎ早に実現を図ろうとしているが、役割が整理されていない上に実効性が一向に見えてこない。

 年内にも省庁の事務次官級で構成する保全監視委員会から発足するが、要するに身内の官僚同士である。何をどう監視していこうというのか。年明けに動きだすという有識者の情報保全諮問会議も、特定秘密指定の統一基準について意見を述べる役目にとどまりそうだ。

 それとは別に与党側には、国会に監視機能を持たせようとする動きもあるが、どんな形にするのかすら定まっていない。

 政治意図に左右されない第三者が個別事案に目を光らせ、行き過ぎに歯止めをかける態勢が不十分なのは明らかである。

 法律を見る限り、知る権利の侵害につながる拡大解釈の余地がやはり残っている。首相は今週の会見で「秘密が際限なく広がることは断じてあり得ない」と強調したが根拠は何なのか。時の政権が暴走し、恣意(しい)的な判断をする事態が将来にわたって起こらないとはいえまい。

 加えて首をひねるのが、法成立後の石破茂自民党幹事長の度重なる発言である。場合によっては特定秘密を報道機関が伝えることに自制を求める姿勢を示した。重要な情報は国家のものであり、国民への開示は二の次。それが与党側の本音と疑いたくもなる。思い起こすのは、大戦中に戦局の情報を統制し、国民の目から隠した歴史だ。

 東京五輪の警備強化を理由にテロなどに関し「共謀罪」を設ける動きが浮上している。犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象になる―。こちらも拡大解釈の恐れが指摘される。特定秘密保護法と共通するのは、国家が「公の秩序」を重んじ、国民の自由や権利を制限する発想ではないか。個別法の是非にとどまらず、大きな論点が横たわる。

 だからこそ慎重な姿勢が求められよう。菅義偉官房長官は懸念に配慮し、新法の中身や運用を国民に説明するとしている。ならば臨時国会のおざなりな公聴会で済んだことにせず、政府としていま一度、国民の声を広く聞く場を設けるべきだ。

 国会論戦も終わったわけではない。通常国会で民主党は廃止法案を検討するという。監視機能を置くための国会法改正の動きも予想される。さらなる徹底審議は当然のことである。

(2013年12月14日朝刊掲載)

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