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社説・コラム

『潮流』 ならぬものはならぬ

■論説主幹・江種則貴

 1年がたつのは本当に早い。新語・流行語大賞に続き今年の漢字が発表されるこの時季になると、いやでも実感する。あれよあれよと、年の暮れ。

 同時に物忘れのスピードも年々速まっていると感じる。昨年、おととしの流行語がもう思い出せない。年を取ったせいに違いない。

 せめて「じぇじぇじぇ」だけでもしっかり覚えておこう。「3・11」を決して忘れてはならない。その戒めの言葉として。

 あの日を境に、時を止め、息を潜めるかのように暮らす被災者や遺族が少なくない。それに気付いていながら私たちは、身の回りの忙しさにかまけてはいないか。あるいは何事もなかったかのように、「3・11」前に舞い戻ろうとしていないだろうか。

 原発がそうだ。あれだけ「脱」を合言葉にしていたはずなのに、政府・与党はまるで「再稼働」を来年の流行語にしたいかのようにつんのめる。福島では汚染水漏れの不安をはじめ、事故は収束していない。

 全員が少しずつ負担して被災地を支えよう。ことしから始まった所得税の復興加算を、私たちは一人一人の使命として受け入れたはずだ。加算は25年間も続くが、忘れないと誓い続ける意味合いは大きい。

 ところが消費税の増税と引き換えに、3年限りだった法人税の加算の方は1年前倒しして廃止される。国を挙げて復興に全力を挙げる支援の「輪」に、企業は入らなくていい。そんな政府のメッセージなのか。

 東京五輪の招致決定は喜ばしいが、こちらも震災復興に資するのが開催の大義だったはずである。なのに首都のインフラ整備の話ばかりが先に進む。

 特定秘密保護法の成立も重なった年の瀬。もう一つ、まさに福島ゆかりの、記憶に刻み付けるべき言葉を思い出した。

 ならぬものはならぬ―。

(2013年12月14日朝刊掲載)

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