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社説・コラム

社説 日本とASEAN 対中連携 焦りすぎても

 日本は今後、東南アジア諸国連合(ASEAN)との信頼関係をどう取り結んでいくか。交流開始40年の節目に東京都内で開かれた特別首脳会議は、なお課題が山積していることを明らかにしたともいえるだろう。

 ASEAN10カ国の首脳と安倍晋三首相らによる全体会議。採択された共同声明の最大のポイントは「飛行の自由および民間航空の安全の確保へ向け協力を強化する」との項目だ。

 東シナ海に防空識別圏を設定した中国が念頭にあるものの、名指ししての批判は避けた格好である。穏当な表現の裏側に、中国との接し方をめぐる各国の温度差が隠れている。

 安倍首相にすれば、もっと強く中国をけん制したかったはずだ。ただ「せいては事をし損じる」ではないが、ここはASEANとの連携強化という原点を再確認し、その上で対中外交を練り直してはどうだろう。

 むろん、中国の海洋進出が東南アジアの不安定要因であることは否めない事実である。南シナ海では南沙諸島の領有権を主張するのに加え、こちらでも防空識別圏の設定をうかがう。地域の緊張を高めているのは中国自身も分かっていよう。

 ところが安倍首相が記者会見でこの問題に触れると、中国外務省は「悪意で中傷した言論に強烈な不満を表明する」との副報道局長談話を発表した。

 想定の範囲内とはいえ、談話の内容はうなずけるものではない。だが非難し合うだけでは解決につながらないのも確かだ。

 ASEANの中には、中国との関係が深い国も少なくない。「中国と日本のどちらに付くか」と迫るわけにもいくまい。地道な対話や交流を通じ、日本への信頼を高めていく努力を続けるしかない。

 安倍首相自身がことし1月に発表した対ASEAN外交の新5原則を思い起こしたい。

 最初の項目で、自由、民主主義、基本的人権など普遍的な価値の定着と拡大にともに努力する、とうたっている。

 ASEANには、軍政から民政へと転じて日の浅い国もあれば、一党支配の国もある。欧州連合(EU)を上回る約6億人が域内に暮らし、今後の経済成長が期待される半面、貧困にあえぐ人々も少なくない。

 自由や人権を守るのは、地域の平和を確かなものにし、貧富の格差を解消していく営みが大前提となろう。環境破壊も含め個人の尊厳を脅かす要因を一つずつ除いていく「人間の安全保障」と呼ばれる取り組みだ。

 そうした面で日本がどう貢献していくか。先日のフィリピンの台風被害の甚大さも思えば、防災面での協力強化は確かに一つの方向だろう。日本の経験や観測技術を生かす方策はさまざまに考えられるはずである。

 首相が唱えた5原則のうち最後の二つは、文化のつながりの充実と、次世代交流の促進を掲げた。

 呼応するかのように、今回の共同声明はその付属文書で「知識人、スポーツ、芸術など双方向の文化および人的交流を促進」と明記した。

 掛け声だけにとどめてはなるまい。いかにして交流の成果をたわわに実らせ、恩恵をともに享受していくか。言うまでもないが、目先の損得勘定にとらわれない意識が欠かせない。

(2013年12月16日朝刊掲載)

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