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社説・コラム

天風録 「家庭内野党」

 夫婦の会話を皮肉る江戸時代の小話―。結婚して半年は亭主が語り、女房は聞き役に。3年後は女房の語りを亭主が聞く。10年後となると、夫婦げんかを隣家が聞くことに▲ともに過ごした歳月をこやしに、隙間を埋めるカップルもいれば、時に寒風が吹きすさぶことも。互いが息を潜めるより、腹の内をしっかりと言い合う。今の時代はそれが円満のこつかもしれない▲手をつないで外出し、おしどりで知られる安倍晋三首相夫妻。と思いきや、昭恵さんの「家庭内野党」ぶりが話題である。政権が進める原発輸出を「国内の事故が収束していないのに筋が違う」と断じ、被災地に造る防潮堤計画には「景観が壊れる」と▲先日は米国の経済紙が「政策批判をためらわないファーストレディー」と題した特集を組んだ。夫人が異を唱えること自体、日本の政界では異例だろう。率直な物言いに政権の支持層には異論もある半面、「よく言ってくれた」との評価も▲支持率が急落した安倍政権。昭恵さん人気は反転攻勢の切り札か、それとも「アッキーレスけん」になってしまうのか。さまざまな見立てが渦巻くネットの世界はもしかして、現代版の隣家なのか。

(2013年12月16日朝刊掲載)

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