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社説・コラム

回顧やまぐち2013 上関原発 エネ政策に揺れる地元

祝島の反対運動 ほころびも露呈

 「上関は今の状況が続くことになり、原子力財源も不透明となる」。19日の上関町議会一般質問。国のエネルギー基本計画素案への見解を問われた柏原重海町長の答弁が議場に響いた。素案は再稼働による原発活用方針を明記したものの、新増設の文言はなし。中国電力が上関原発を計画する同町の、今後の町政運営に対する不安が口をついた。

位置付け不明確

 民主党政権の原発ゼロ目標の転換。素案は「基盤となる重要なベース電源」として原発の必要性を強調し、新増設の余地も残す。上関原発計画の推進派はおおむね好意的に受け止めているが、上関町から50キロ離れた和木町では議会が素案を批判し、原発ゼロを求める意見書を可決した。

 2011年3月の福島第1原発事故を機に中電が作業を中断している原発予定地の埋め立て工事。山本繁太郎知事は3月、中電の埋め立て免許延長申請の可否判断を1年程度先送りする方針を表明した。原発活用に前向きな安倍政権のエネルギー政策を見極める形だったが、素案では上関原発の位置付けは明確には示されなかった。

 「福島の事故で原発の危険性ははっきりした。脱原発の世論を上関に向けたい」。反対派の「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の清水敏保代表(58)は話す。来年3月には過去最大となる1万人規模の抗議集会を計画。脱原発を掲げる県内の団体も連携し、原発ゼロの機運を盛り上げたい構えだ。

2月には町議選

 一方で、足元の祝島では反対運動にほころびも。県漁協祝島支店(同町祝島)は2月、過去3回拒否してきた上関原発計画に伴う漁業補償金約10億8千万円の受け取りを一転、賛成多数で決めた。53人いる支店組合員は大半が高齢者。原発計画浮上からことしで31年になり、島の原発反対への姿勢は変質も見せ始めている。

 町は10月、国の原発交付金で建設する総合文化センターと農水産物市場の着工に踏み切った。国の原発政策が明確化したわけではないが、規模を縮小し、予算を圧縮することで計画を一歩前へ進めた格好だ。

 上関原発計画や国の原子力政策を町民がどう受け止めているのか。来年2月には福島原発事故後初となる町議選を迎える。(井上龍太郎)

◆記者のひとこと

立場超えた議論急務

 町は当面、多額の原発関連交付金による恩恵を望めない。高齢化率が50%を超え、財政逼迫(ひっぱく)が深刻化するのは確実。財源確保に向けた観光振興や定住策をいかに打ち出せるか。推進、反対の立場を超えた議論が急務だ。

上関原発計画
 中国電力が上関町に計画する改良沸騰水型軽水炉。1、2号機の出力はいずれも137万3千キロワット。埋め立てる海域は約14万平方メートルあり、県は2008年10月に公有水面埋め立てを免許した。中電は09年10月に作業を始めたが、福島第1原発事故の影響などを考慮し中断。期限切れ直前の昨年10月、免許の3年延長を県に申請した。山本繁太郎知事はことし3月、免許の可否判断を1年程度先送りすることを表明。中電側に5度目の補足説明を求めている。

(2013年12月25日朝刊掲載)

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