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社説・コラム

社説 安倍政権1年 政策の優先順位誤るな

 前回衆院選で自民党が圧勝し、安倍晋三氏が首相の座に返り咲いてきょう1年になる。

 政治の風景は変わった。歴代自民政権でいえば小泉政権以来のインパクトを内外に与えているが、小泉純一郎氏の「自民党をぶっ壊す」とは異なろう。

 安倍政権も「官邸主導」を志向している。だが、党内の派閥横断的な多数派の上によって立ち、一枚岩を保とうとしているように見える。

 それにしても性急に過ぎたのではないか。「戦後レジームからの脱却」というスローガンに基づく動きが、である。7月の参院選で圧勝すると、国家安全保障会議(NSC)創設を決め、世論の反発をおして特定秘密保護法の成立を強行した。

 直後の内閣支持率が急落したのは当然だろう。確かに「日本を、取り戻す」を政権公約の標題に掲げてはいた。だが、それはこういう意味だったのか、と国民の不信感を増幅させた。

 安倍政権の発足当初、国民の期待の先には何があったのか。まずは長引くデフレからの脱却と経済再生だったはずだ。

 当初から「アベノミクス」と呼ばれる経済政策を前面に掲げた。第1次安倍内閣が有権者の関心の高い年金改革や景気対策などを後回しにしたと批判され、自民支持層の流動化、ひいては民主党政権への実現に道を開く結果になったからだろう。

 1月に物価上昇率前年比2%の早期実現を明記した共同声明を日銀とともに発表した。4月には「異次元の」を冠する大幅な金融緩和を決める。これは「第1の矢」として市場に歓迎され、先行きへの期待感から円安株高が進んだ。

 この流れが内閣支持率を押し上げたのは間違いない。

 だが、公共投資などが下支えしてプラス成長に転じた国内総生産(GDP)も、最近は伸び率が鈍化している。アベノミクスに早くも陰りが出た格好だ。

 国民の多くがいまだ景気回復の手応えがない中、本来なら「富の再配分」をもっと念頭に置かなければならないはずだ。企業の内部留保は280兆円にまで膨らんでいる。富と人材を大都市だけに集中させる戦略であっては困る。

 7月の参院選で衆参の「ねじれ」がなくなり、「1強」体制が出来上がった。安倍首相は長期政権を狙うのだろう。

 だが、消費税率引き上げを迎える来年4月は一つの正念場になる。社会保障の維持と財政再建が大義名分だったはずの増税が景気回復に水を差し、国民に先行き不安を与えるようなら長期政権への道にも影を落とす。

 環太平洋連携協定(TPP)や原発再稼働など、より慎重に対処しなければならない課題も待ち構えており、前途は多難である。ここは立ち止まって国民の声に耳を傾け、政策の優先順位を十分検討すべきではないか。

 首相は秘密保護法について「丁寧に時間を取って説明すべきだった」と述べているが、まさにそれを最初に実行しなければならなかった。「1強」であればあるほど、おのれを律する姿勢が大切だろう。

 首相は就任直後、「わが自民党に対し完全に信頼が戻っているわけではない」とも述べている。特定秘密保護法の時のような強引な手法は、今後はあってはならない。

(2013年12月26日朝刊掲載)

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