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社説・コラム

社説 安倍首相の靖国参拝 隣国の反発 承知の上か

 政権発足1年という日に合わせたのは一体どうしてなのだろう。安倍晋三首相がきのう、靖国神社を参拝した。

 中国や韓国は早速、強く非難した。連立政権パートナーの公明党も不快感を隠さない。

 首相は織り込み済みだったはずだ。周囲の反感は覚悟の上で政権の節目に自分なりの筋を通した、ということなのだろう。

 とはいえ多くの国民は唐突感を抱いたに違いない。首相は参拝後に「御英霊に尊崇の念を表した。不戦の誓いをした」と述べた。だが戦没者を追悼し平和を誓うなら、きのう以外の選択肢はいくつもあろう。

 「御英霊に政権1年の歩みを伝えた」とも首相は語った。それでは単なる自己アピールと受け取られても仕方あるまい。

 確かに、以前の首相在任時に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と述べていた。毎年のように参拝すべきだという使命感があることはよく分かる。

 それでも自重していたはずが一転した。政権基盤の揺らぎが背景にあるのでは、との見方が永田町周辺から聞こえてくる。

 すなわち、これ以上参拝を先送りすれば、政権の後ろ盾である保守層が離反しかねない。さらに来年4月からの消費税増税でもし景気が失速すれば、「経済再生」を表看板に掲げる政権の存続に黄信号、果ては赤信号がともってもおかしくはない。

 特定秘密保護法を半ば強引に成立させた与党の姿は、一時的であれ、内閣支持率の急落につながった。だからこそ「強い日本を取り戻す」という政権運営の原点を再度アピールする狙いもあったのではないか。

 しかしそうだとすれば、それこそ靖国神社の政治利用だとの批判を浴びかねない。

 もちろん東シナ海に防空識別圏を設定するなど最近の中国の傍若無人ぶりを思えば、これ以上関係が悪化しても同じこと、との見立てはあろう。

 だが、互いにナショナリズムの火花を散らすことが、果たして真の国益につながるのか。ここは冷静な見極めが不可欠だ。

 山積する国内問題から国民の不満をそらすため、こわもての外交姿勢を続ける。そうした習近平政権の政治手法も批判できなくなってしまう。

 靖国神社にはA級戦犯が祭ってある。思想信条を問わず全ての戦争犠牲者を追悼したといくら強調しても、日本の首相が参拝する限り、隣国との摩擦が高じるのは必定だ。

 首相は「誤解されている」とし、中韓首脳との対話を通じて理解を得たい意欲も示した。

 では、なぜこの夏の全国戦没者追悼式で安倍首相は、歴代の首相が式辞に盛り込んできたアジア諸国への加害責任や不戦の誓いに触れなかったのだろう。

 外交と安全保障の基本姿勢に「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を掲げる安倍政権である。中国や韓国との間でも、その「国際協調」を具体的な行動で示さない限り、おいそれと関係改善とはいくまい。

 注目すべきは在日米大使館が発表した声明である。「米政府は失望している」とあからさまに突き放す表現を盛り込んだ。

 東アジアの安定を強く促す意味合いだろう。同時に、首相が目指す「戦後レジームからの脱却」は戦勝国の機微に触れる。そんな警告とも読める。

(2013年12月27日朝刊掲載)

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