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連載・特集

『核兵器はなくせる』 新政権の安保と外交を聞く <4> 前廿日市市長 山下三郎氏

■記者 林淳一郎

  ―新政権に何を注文しますか。
 「核兵器のない世界」をうたうオバマ米大統領の登場で、世界中に反核・平和の動きが広がっている。民主党のマニフェスト(政権公約)にも「核兵器廃絶」などの言葉が並ぶ。国際社会の動きに被爆国日本の政府もしっかりと乗り、実行力を発揮するときだ。

 国の安全保障とは国民の安全を守ること。北朝鮮の核実験やミサイル発射に軍備で対抗する考え方もあるだろうが、それは間違い。困難であっても、手をつなぎ合う外交こそ目指すべきではないか。

要の取り組み

  ―世界の動きに乗るとは。
 原爆被害の実情を広めることだ。2005年に米国であった核拡散防止条約(NPT)再検討会議で被爆体験を語り、拍手を受けた。原爆がどんなに恐ろしい兵器か伝わったと実感した。

 オバマ大統領らに広島訪問を促すのも大事だ。政治指導者が「核兵器はいらない」と思わないと廃絶は実現できない。廃絶の先頭に立つために、要の取り組みだ。

  ―被爆地が国に対し、どう働き掛けるべきだと思いますか。
 平和な暮らしこそが国民の願い。安保・外交政策は国の専管事項とはいえ、地方自治体や住民一人一人が国の政策を点検することが重要になる。

 広島、長崎が主導する平和市長会議の加盟都市は世界で3000を超えた。ただその中に中国や韓国などアジアの都市は少ない。歴史認識の違いや戦後補償の問題があるからだろう。地方も知恵を出し、国家間の課題を少しでも解消することが真の地域連帯、スムーズな外交につながると思う。

ぶれぬ姿勢で

  ―民主、社民、国民新党は連立合意で在日米軍基地の在り方を見直す方向です。どんな道筋を望みますか。
 廿日市市長時代、米海兵隊岩国基地(岩国市)の増強反対を訴えた。仮想敵国があるから、軍備の強化や再編が浮上する。その相手もきっと敵視をやめない。背後に核兵器があればなおさらだ。

 戦後64年がたち、そろそろ考え方を変える時期ではないか。軍事力を伸ばすより、それに頼らない安全保障の構築を目指すべきだ。難しいのは分かる。だが、米国も日本も政権交代した。被爆者の一人として変化を望み、その後のぶれない姿勢を求めたい。

 やました・さぶろう
 15歳の時、学徒動員先だった広島市西区の工場で被爆した。1955年、旧宮内村(現廿日市市)村議に初当選。町議、市議を歴任し、1991年から廿日市市長を4期16年務めた。2000年から7年間、日本非核宣言自治体協議会副会長。

(2009年9月12日朝刊掲載)

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