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連載・特集

核兵器はなくせる 第8章 米国は今 <1> 核体制見直し

■記者 金崎由美

「役割削減」どこまで 年内にも議会に提出

 オバマ米大統領へのノーベル平和賞授賞決定のニュースは、核兵器廃絶への国際機運を大きく盛り上げた。一方、オバマ氏が賞に見合う実績を積み重ねていくのはこれからであり、核超大国が当面乗り越えるべき課題は少なくない。米国の国内事情から、廃絶実現への試金石をみる。

 オバマ政権は、その核政策の基本戦略「核体制の見直し(NPR)」を年内にもまとめ、米議会へ提出する。国防総省を中心に現在、核兵器の役割をどう規定するかなど詰めの作業が進んでいるとされる。

 英紙ガーディアンは9月下旬、オバマ大統領がNPRの草案を突き返したと報じた。「廃絶を目指すには内容が弱すぎる」が、やり直しを命じた理由という。

 「NPRの中身は間もなく決まる。待ったなしなんだ」。ひんやりとした秋の気配が濃くなった首都ワシントンで、議会へのロビー活動を続ける民間団体「憂慮する科学者同盟(UCS)」のスティーブン・ヤング氏が力説した。

 日米両国首脳に9月下旬、米国の安全保障や核軍縮専門家13人が公開書簡を出した。ヤング氏らが練った文面は「核兵器の唯一の役割は、他国による核兵器の使用を抑止すること」と明言。核攻撃への反撃に核兵器を使うことがあっても先には使わない「核の先制不使用」政策をNPRに盛り込むよう働き掛ける内容だった。

 鳩山由紀夫首相にもあてたのは「日本の前政権が米国に先制不使用を宣言しないよう望み、それが米国の核軍縮反対派を勢いづかせている」との理由からだ。9月に国連で「核兵器廃絶の先頭に立つ」と演説した鳩山首相も含め、両国首脳からの返事はまだ届いていない。

 ワシントン市内で今月上旬、シンクタンク「戦略・予算評価センター」が主催する米核戦力についての研究報告会があった。

 アンドリュー・クレピネビッチ所長はオバマ政権の政策に懐疑的な立場から発言した。「日本の(前政権の)政府関係者と話すと、『核兵器のない世界』を非常に懸念していた。中国や北朝鮮と向き合う日本が望むのは『核の均衡』であり、米国は先走りしすぎだと思っている」。被爆国の従来の主張を論拠に、核兵器の役割は現状維持を求めた。

 オバマ大統領自身は9月の国連総会演説でNPRに触れ、こう決意表明している。「さらなる削減への扉を開き、核兵器の役割を削減させる」。それこそがノーベル平和賞の受賞理由。手腕の発揮しどころが刻一刻と近づく。

(2009年10月14日朝刊掲載)

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