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連載・特集

核兵器はなくせる 「核の傘」をたたむ日 <4> 

■「核兵器はなくせる」取材班

ポスト冷戦世代 非核の意識 深化の兆し

 東西冷戦が終わったころに生まれた現在の大学生は「核の傘」をどうとらえているのだろうか。広島修道大(広島市安佐南区)法学部の佐渡紀子准教授のゼミで国際政治について学ぶ6人に意見交換してもらった。また、中国新聞キャンパスリポーターにもアンケートした。

 超大国による核軍拡競争は一応の終止符を打ったものの、核拡散の懸念は強まる。そんなポスト冷戦の時代に生きる若者たちの「核の傘」への意識を紹介する。

広島修道大国際政治学科

2年 竹口志保さん(19)
2年 世応麻衣さん(19)
3年 富樫裕子さん(20)
3年 池田雄さん  (21)
2年 金子由依さん(20)
2年 為政伸彦さん(20)

≪司会≫佐渡紀子准教授


核の傘

 佐渡 「核の傘」をどう理解していますか。

 池田 核の傘の下にいることで間接的に抑止力を持つことができると思う。

 竹口 核の傘がなければ自国の安全は守れない。ただ一方で日本は核兵器廃絶も訴えている。どうしたいのか、日本はもっと明確にしなければならない。

 世応 私は北朝鮮やイランなどから万が一攻撃を受けたときに、米国が核で守ってくれると理解していた。でも、核兵器を落とされた唯一の国として核兵器廃絶を訴えているのに、核の傘に頼るのは問題だ。

 金子 中国新聞の連載「『核の傘』をたたむ日」を読んで、核の傘の下にオーストラリアなど30カ国もあると知り、驚いた。米国は他の国に核兵器を持たせたくないんだなと思った。

 富樫 核の傘の効力は落ちていると思う。オバマ米大統領は「核兵器を廃絶する」と言っている。それなのに、日本が攻撃されたとして簡単に核兵器を使うだろうか。

 佐渡 核兵器を使ってはいけないという、いわゆる「使用のタブー化」が進んでいると考えますか。

 金子 はい。オバマ大統領になって廃絶への道が開けてきた。だから進んでいると思う。

 為政 もし日本が核攻撃されたら、米国が報復してくれるということが核の傘の効果。日本を裏切って報復しなかったら、他の国にも信頼されなくなる。核使用は簡単にタブー化できないのでは。

 佐渡 核の傘の効果と問題点をどう考えますか。

 池田 核の傘があるから、日本に核が落とされる可能性が生じると思う。北朝鮮が日本を攻撃するなら、その理由は米国がバックにいるから。

 竹口 米国が日本のために核を使うことは、日本が核を使うことと同じ。被爆国としてどうかと思う。

 富樫 核の傘に頼る政府と民間の意識との間にずれがあるのでは。東京にある政府に被爆地広島の意向が反映されず、核の傘にこだわっている。でも私たちは、そこまで求めていない。

 佐渡 日本側から核の傘を要求しているのも事実ですね。

 世応 びっくりした。日本は核兵器廃絶に前向きに取り組んでいると思っていた。自ら核の傘を求めているとは知らなかった。

 為政 うん。核の傘を当たり前に感じていた。

 池田 政治家が「核兵器はいけない」と認識しながら米国の核に頼るのは、米国に「間接統治」された戦後の歴史と関係があるのでは。政策決定が米国の意思に流されている。


日米安保

 佐渡 日米安保は今の日本にとってどんな役割があると思いますか。

 富樫 日米同盟を手放すことはできなくなっていると思う。ただ、核抑止の考えを生むなど負の側面もあることを忘れてはいけない。

 金子 私も同じ意見。日米安保を解消したらどうなるのか、想像できない。

 世応 同感。怖い。ミサイルが日本に飛んできそう。

 竹口 私もなくなったら怖いと思う。米国は大きな存在。日本は安全保障の面で独り立ちできないのではないか。

 為政 ただ、たとえ米国の核の傘がなくなったとしても、日本はどこに攻撃されるのか。日本を敵視する国はあるんだろうか。

 池田 米国との結びつきは軍事だけではない。経済などの関係もある。軍事のパートナーシップがなくなっても安全保障上の不安は解消できるのではないか。

 竹口 日本が自国の安全を守るためには、北朝鮮や中国などと話し合える関係づくりが大事だと思う。

 金子 日本は経済で世界トップクラスであり、核の傘から出ても心配ないのでは。コスタリカは軍隊を持たず、「モラルによる抑止力」を追求していると聞いた。日本も憲法で軍隊を放棄している。経済で国際社会と渡り合うことができるのではないか。

 為政 今、核超大国の米国が核兵器廃絶や軍縮を訴えるようになったのは大きな進歩。これを機に廃絶を願っている。オバマ大統領はぜひ広島で廃絶宣言をしてほしい。

 池田 オバマ大統領が掲げる「核なき世界」は望ましい。核兵器国同士で、ある程度は核兵器を減らせるだろう。一方、北朝鮮やイスラエル、核開発疑惑国のイランとどう向き合うのかは課題。日本が核の傘から出られるのは、核兵器が地球からなくなった時だと思う。

 富樫 ただオバマ大統領に頼り過ぎてはいけないと感じる。日本が主体的に核の傘から出るべきだ。市民の力で対人地雷全面禁止条約を実現した「オタワ・プロセス」のように、核兵器廃絶を訴え、祈るだけではなく、被爆地広島が主導して「ヒロシマ・プロセス」をつくってはどうか。

 世応 そう。日本は核兵器に頼らない安全保障を考える必要があると思う。受け身ではなく、被爆国として行動を起こしていきたい。


不要論が7割 キャンパスリポーターアンケート

 中国新聞キャンパスリポーターの学生に核兵器をめぐる意識アンケートをした。「核の傘」不要論が7割を超えた。

 アンケートはリポーター約190人を対象に電子メールで行い、広島県内を中心に39人が回答した。

 日本の安全保障について「米国の核兵器で守ってもらうべきでない」が28人(72%)。「どんな脅威があろうと原爆の悲惨さを他国に味わわせるべきでない」「率先して平和を訴えていくべき日本が、核の抑止力を利用して平和を得るのは道理に合わない」などを理由に挙げている。

 一方、「守ってもらうべきだ」は11人(28%)。理由は「二度と(被害を)繰り返さないためにも核で核から守られることは必須」「北朝鮮に近いから」などが目立った。


アンケート分析 佐渡准教授

 アンケート結果を広島修道大の佐渡紀子准教授に分析してもらった。

 「核の傘」を知っているのが7割というのは少ない。冷戦が終わって国家間の戦争の可能性が低くなり、核の傘を自覚することが少なくなったためだろう。ただし日本の安全保障の根幹の問題であり、全国的にも8割、被爆地広島や周辺の学生たちはそれ以上に知っておいてほしい。

 「核兵器で守ってもらうべきだ」の回答が3割近く。理由として他の核保有国からの脅威を挙げる人が多く、テロの脅威などには触れていない。ある意味、伝統的な考え方と言える。

 これに対し「守ってもらうべきでない」は7割。その理由は多様で、核兵器の非人道性や拡散の恐れ、抑止力への不信感など、近年の廃絶論の論拠をカバーしている。広島や周辺の若者の議論が、ある程度成熟してきたのだと感じる。

 一方、半数近くが「核兵器は廃絶できない」とした。総じて「他国の核兵器は廃絶できないが、日本は核の傘から出るべきだ」と考えていると読みとれる。(談)

(2009年12月13日朝刊掲載)

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