連載・特集

核兵器はなくせる 第12章 扉を開くとき <4>

■記者 「核兵器はなくせる」取材班

財政・健康に重いツケ

 核兵器は造るにも維持するにも、さらに後始末にも膨大な費用がかかる。そのために国家予算を配分すれば、当然、国民の暮らしに響く。

 1965年の第2次印パ戦争で、パキスタン人民党のアリ・ブット党首(後に大統領)は、インドが仮に核爆弾を製造すれば対抗して「草や葉を食べてでも核爆弾を持つ」と発言した。実際にその後、インドもパキスタンも巨費を投じ、核兵器開発を競った。

 だが、核兵器関連コストの全体像は、国家安全保障という機密のベールにも包まれ、見えにくい。

 米国のモントレー国際関係研究所の研究員らは、米国の2008会計年度の核兵器関連支出(核不拡散対策やミサイル防衛開発費も含む)を「少なく見積もって」524億ドルと分析している。日本円で約4兆8千億円。これは日本の10年度の防衛費に匹敵する。

 またオバマ政権は今年4月、大陸間弾道ミサイルや戦略原子力潜水艦、長距離爆撃機の維持・近代化に今後10年間で計1千億ドル(約9兆2千億円)の支出計画を発表した。いずれも核弾頭を載せる運搬手段であり、それだけで毎年1兆円近くを出費する計算だ。

 米国最大の平和団体ピースアクションのケビン・マーティン代表(47)は「オバマ大統領が掲げる『核兵器のない世界』との目標と完全に矛盾する。逼迫(ひっぱく)する政府財政から膨大な支出をすること自体が、議会の保守派と核兵器産業が依然として力を持つ現状を示す」と危機感をあらわにする。

 米国だけではない。英政府は核戦力「トライデント」の更新を計画する。新たに潜水艦やミサイルを建造し30年間運用した場合の累積費用は760億ポンド(約10兆3千億円)とされる。1千億ポンド(約13兆5千億円)という別の試算もある。

 フランス・マルセイユ近くで解体中の核開発関連施設。私たちは報道機関として初めて内部を取材した際、解体費用は40年までに67億ユーロ(約7550億円)かかると聞いた。

 こうした核兵器の開発や維持、更新、さらに後始末が国民生活にもたらすのは、コスト面のしわ寄せだけではない。原子力発電を推進し、核兵器を製造し保有する人口11億人余のインドを昨年2月に取材した際、深刻な健康影響も垣間見た。

 インド洋に面した原子力研究施設近くにある170戸ほどの漁村を訪ねると、首の腫れた女性をよく見かけた。「35人に症状が出ている。甲状腺がんが多い」と地元医師。しかし政府が原因究明や対策に着手する様子はうかがえないという。

 被爆者は原爆放射線がもたらした後障害に今も悩まされている。世界各地で繰り返された大気圏核実験も含め、ひとたび核物質が人体や地球環境を汚染すると、その影響を簡単にぬぐい去ることは到底できない。

(2010年6月17日朝刊掲載)

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