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広島五輪の行方 基本計画案 <上> 「常識」とのギャップ

■広島五輪取材班

「寄付頼み」道険しく 低コスト 評価の声も

 広島市は28日、2020年夏季五輪の開催基本計画案を正式に公表した。平和の理念を掲げた被爆地の挑戦は、「世界に広島を訴える世紀の祭典」への第一歩なのか、それとも「荒唐無稽(むけい)な夢物語」でしかないのか。計画案に対する関係者や市民の受け止めからその行方を探る

 「インターネットなどを利用すれば、寄付は確保できる」

 市が基本計画案を示した28日の市議会全員協議会。佐伯克彦市民局長が992億円と見込む寄付金などの収入を説明する場面で、ざわめきが起きた。

 協議会終了後、秋葉忠利市長と距離を置く自民新政クラブの谷口修幹事長は「具体的な見通しが何もなく絵に描いたもちだ」と批判した。市は16年五輪を目指した福岡市が1千億円とした地元負担額も、約20分の1の52億円と見積もる。未来クラブの桑田恭子幹事長は「本当にできるのか」と首をかしげる。

 一方で評価する意見も少なくない。公明党の平木典道幹事長は「環境への配慮や低コストの理念はいい」と語り、議長が所属する市民市政クラブの沖宗正明幹事長も「アジア大会を開いた実績を生かしている」とみる。

負担要求を警戒

 ただ、多くの議員に共通するのは、財源として見込む世界中からの「寄付金等」の992億円という数字が信じがたいとの思いだ。

 秋葉市長を会長とする五輪招致検討委員会の委員や、サポーター役の応援委員で参加する自治体も反応は分かれる。県立もみのき森林公園が馬術会場に想定された廿日市市の真野勝弘市長は「広島でできれば素晴らしい。次回会合で詳しく聞きたい」と話す。観客の宿泊先候補に挙がる益田市の福原慎太郎市長は「益田の知名度も上がる大チャンスだ」と前向きな姿勢を示す。

 これに対し、広島県の湯崎英彦知事は「全体像が明らかになった点は評価したい」としつつ、寄付金などに頼る財政計画に「確実性の検討が必要だ」とくぎを刺す。県幹部からは「市から今後、負担を求められるはずだ」と警戒の声も漏れる。

 秋葉市長たちが昨年10月に招致検討を表明して以降、各界で「無謀」との見方も出た広島五輪。それでも地元出身で、陸上のトップアスリート為末大選手(32)は、広島五輪で何か「大きな財産」を残すことが重要とした上で「在住する米国でもニュースが流れ、インパクトがある。実現すれば世界中の都市に可能性が広がる」と期待する。

選手優先求める

 日本オリンピック委員会(JOC)には、広島原爆の日の翌日を開会式とするなど「平和五輪」の理念を評価する声もある。ただ、JOC幹部の一人は「低コスト重視で、選手最優先の姿勢がみえない」と懸念する。

 広島市は、最大の焦点である財政計画で総事業費を4491億円に抑え込んだ。選手村や競技場の仮設整備を徹底するなどして、16年夏季五輪の招致を目指した東京都、福岡市に比べて3千億円前後圧縮した。

 総事業費のうち地元負担分もまた、従来では考えにくい52億円と算定。それを支える財源には、寄付や仮設施設の売却益などの巨額の収入を当て込んだ。

 基本計画案に示された「常識破りの数字」。それを現実へと導く道筋は、まだだれにもみえていない。

(2010年9月29日朝刊掲載)

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