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広島五輪の行方 基本計画案 <中> 低コスト化への評価

■広島五輪取材班

仮設施設 賛否割れる 交通 追加支出の懸念

 広島市は2020年夏季五輪の開催基本計画案で、広島県内外37競技会場のうち、バスケットボールなど17会場を仮設にする方針を打ち出した。1万7千人が宿泊する選手村もユニット化して仮設で整備する。

 環境に配慮し、低コスト化した広島五輪の「看板」ともいえる仮設施設。29日の記者会見で、秋葉忠利市長は「一時的で粗末と思われている感があるが、一流で高品質な施設を確保する」と強調した。ただ、選手や競技団体関係者、専門家の間で意見は分かれる。

 シンクロナイズドスイミングでソウル五輪に出場した片山満津芳さん(広島市中区)は「五輪後を考えると賢い選択。2001年に福岡市であった世界選手権プールも仮設だった」と理解を示す。

競技環境に不安

 基本計画案は、仮設施設の売却益も財源に見込む。五輪招致検討委員会顧問として、バンクーバー冬季五輪を視察した都市計画家の松波龍一さんは「仮設の選手村は、周辺自治体が公的住宅用に購入した。仮設施設のニーズはある」とみる。

 一方、広島アジア大会競技部長だった立川哲男さんは「アスリートは0.01秒、1センチに4年間のすべてがかかっている。『仮設だから競技環境のレベルが低くても我慢して』はあり得ない。ドーピング対策も徹底できるのか」と疑問を呈す。

 五輪の取材経験が豊富なスポーツジャーナリストの生島淳さんは「感動や思い出だけが五輪の遺産では寂しい。2000年夏季五輪の開催地・シドニーはオリンピックパークを多様なイベントで活用し街の発展に寄与している」と指摘する。

 2016年五輪を目指した東京都や福岡市に比べて、総事業費を3千億円前後も圧縮した広島五輪の基本計画案。仮設施設と並んで低コスト化を支えるのが、道路や交通など関連のインフラ整備を行わない方針である。

もろいアクセス

 地元負担額を約1千億円と算定した福岡市。高速道路の整備や港湾埋め立てなどを計画し、五輪の総事業費のうち、関連経費が4864億円に膨らんだことが要因である。

 これに対し、地元負担額を52億円とする広島市は、メーンスタジアムである広島ビッグアーチ(安佐南区)の増席など関連経費は137億円にとどまる。

 ただ、自治体財政に詳しい広島大大学院の鈴木喜久准教授(経済学)は、基本計画案に盛り込まれていない「隠れ支出」が生じる可能性に言及する。

 鈴木准教授は、仮設施設での低コスト化を「新しいアイデア」と評価する。その上でビッグアーチ周辺など選手、観客を輸送する市内の交通アクセスのもろさを指摘。「基本計画案にインフラ整備が入っていなくても、なし崩し的に市の通常予算で整備をやらざるを得なくなるのでは」との見方を示している。

広島五輪基本計画案の仮設会場
 低コスト開催を掲げ、全37競技会場の半数近い17会場を仮設にする。規模が大きいのは、競泳などを想定する扇地区会場(西区、収容人数2万人)▽バスケットボールの出島地区会場(南区、1万5千人)▽バレーボールの阿賀マリノポリス会場(呉市、1万2千人)―など。水泳マラソンの太田川放水路(西区)やカヌーの八千代湖(安芸高田市)は自然環境をそのまま利用する。

(2010年9月30日朝刊掲載)

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