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連載・特集

新エネ・省エネ最前線 東広島の挑戦 <上> 海洋パワー

 福島第1原発事故を機に、研究学園都市の東広島市で自然エネルギーの利用や省エネ技術の研究が活発になっている。大学は海や雨水など身近な資源の活用を探り、省エネのノウハウを売り込む企業も商機をうかがう。最前線の動きを追った。

 三角形のいかだ式装置が水槽で揺れると、パソコン画面に電圧の波形が現れた。東広島市の広島大キャンパスにある船舶模型用の試験水槽。8月末、大学院工学研究院のチームが波や潮流を利用して発電する実験を始めた。

 「絶え間なく生まれる海洋エネルギーは膨大だ。海に囲まれた日本の大きな電力源になりうる」。陸田(むつだ)秀実准教授(41)は熱く語る。装置を作った大学院2年平田真登さん(23)も「将来、有望な技術になれば」と期待する。

 いかだは1辺2・2メートル。中心に長さ80センチの筒状の骨組みが水中に垂れる。圧電フィルムをシリコーンで覆ったパネル(幅10センチ、長さ34センチ)を21枚備え、波や潮流を受けて変形すると発電する。約150倍の実機で一般家庭約5千世帯分の電力を賄えるという。

 ヒントは広島湾に浮かぶカキ養殖用のいかだ。陸田准教授は、海面のいかだと海中に垂れ下がったカキの揺れを眺め、「上下に動く波と横に移動する潮流を効率よく受け止められる」とひらめいた。

 構想は壮大だ。洋上に並ぶ風力発電用の風車の周りにいかだを複数浮かべ、ケーブルや蓄電池を使い陸上に送電する。波のエネルギーの総量は日本近海で約3500万キロワットとの報告もあり、原発約35基分に相当する。

 田中義和助教(37)は「パネルを防波堤や波消しブロックに張り、海底にも海藻のように設ければ大きな電力を得られる」とみる。

 蓄電効率の向上や送電コストの削減など課題は多い。脱原発を求める声が勢いを増す中、陸田准教授は「原発を補うには太陽光や風力に加え海洋エネルギーも必要」と説く。海洋国家に新たなエネルギー利用の道を開くため、広島発の技術を磨く。(境信重)

(2011年9月15日朝刊掲載)

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