×

連載・特集

『地域と原発』 上関 見えぬ着地点 中電「推進」 政府は「困難」

 中国電力の苅田知英社長が16日、あらためて建設推進を強調した上関原子力発電所(山口県上関町)。一方で政府は建設推進を「困難」とし、地元の上関町は原発なしの地域振興も探り計画中止も視野に入れる。計画の最終判断をいつだれが下すのか。着地点は見えない。(永井友浩)

予定地ひっそり

 今年はじめ、海面埋め立てを進める中電と反対派が対立し、騒然とした建設予定地。今はひっそりと静まり返る。海岸のテントに寝泊まりしていた反対派住民たちも、中電が工事を中断して以降、姿を見せなくなった。

 上関原発の建設予定地から約9キロ北東にある中電の上関原発準備事務所。「本当なら今ごろ、本格的な事務所棟が現地に立っていたはずだ」。古びたプレハブの建物を見上げ、中電社員が語った。

 福島原発事故の後、山口県の二井関成知事、上関町の柏原重海町長の要請を受け、中電は建設予定地の埋め立て工事を中断。現在は、炉心の下の岩盤の強度を調べる追加の地質調査と施設の管理だけが行われている。

 吉富哲雄執行役員準備事務所長は「困難な状況に違いないが、住民が不安に思う今こそ原発の安全性や必要性をしっかり説明しなくては」と力を込める。

 野田佳彦首相や閣僚の発言を受け、町は、原発推進の立場を維持した上で「未来に向けてオプションを用意しておく必要がある」として、原発がない場合の振興策を協議する場を設けることを決めた。

「正直無理かな」

 町内の推進派団体、町商工事業協同組合の浅海努理事長は「中電は造ると言うが、心の底では正直無理かなと思う」と胸の内を明かす。一方で町の基幹産業である漁業は、高齢化や消費者の魚離れで衰退が進み、「30年も建設推進にかけた思いは簡単に変えられない」と肩を落とす。

 一方、反対派の長島の自然を守る会の高島美登里代表は「上関は貴重な生物の宝庫。自然を生かしたまちづくりを進めるべきだ」とまちづくりの方向転換を提言する。

 2018年3月の運転開始を目指す1号機、22年度目標の2号機は、島根原発の3基を上回る合計出力274万6千キロワット。中電は発電量の2~3割程度を賄うと想定する。仮に中止になれば、中電は原子力、火力、水力発電の電源構成を描き直す必要がある。

 政府は、経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会、政府のエネルギー・環境会議の判断を受け、今後の原子力政策を決めるとする。だが個別の建設計画をどう扱うかは明確でない。

 上関町では、原発建設の是非が争点となる町長選が25日、投開票される。

上関原発
 中国電力が山口県上関町で建設を計画する原子力発電所。改良沸騰水型の軽水炉で、1、2号機の出力はともに137万3千キロワット。1号機は2018年3月、2号機は22年度の運転開始を目指す。1982年に当時の町長が誘致を表明した。

(2011年9月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ